アクションカメラ市場を牽引するGoProが、かつてドローン市場に参入していたことをご存知でしょうか。
2016年に発売された「GoPro Karma」は、GoPro初となる空撮用ドローンとして大きな注目を集めました。
しかし、その販売期間は短く、現在では公式サイトでの取り扱いも終了しています。
本記事では、GoPro Karmaの製品概要や特徴的な機能、過去に発生したリコール問題の経緯、そして現在の入手・サポート状況について詳しく解説します。
また、GoProがなぜドローン市場から撤退したのか、その背景と現在の戦略についても掘り下げます。
これからドローンを始めたい方や、GoPro製品の歴史に関心がある方に向けて、テクノロジーの変遷と現在の最適な選択肢を整理してお届けします。
GoPro Karmaとは?歴史を刻んだGoPro初のドローン
GoPro Karmaは、アクションカメラの代名詞であるGoPro社が開発・販売した最初で唯一のドローン製品です。
ここでは、GoProがドローン市場に参入した背景と、Karmaが持っていた独自のコンセプトについて解説します。
GoPro Karmaは単なるドローンではなく、空と地上の撮影を繋ぐシステムとして開発されました。
GoProが描いたドローン市場への挑戦
2010年代半ば、ドローン市場は急速な拡大を見せていました。
当時、GoProのアクションカメラは多くのドローン愛好家によって他社製ドローンに取り付けられ、空撮に使用されていました。
この状況を受け、GoProは自社のカメラ性能を最大限に活かせる純正ドローンの開発に着手します。
GoProにとってKarmaは、単なる飛行デバイスではなく、空からの視点を加えることで「人生のあらゆる瞬間を記録する」というブランドミッションを拡張するための重要な挑戦でした。
アクションカメラ市場での圧倒的なシェアを背景に、空撮分野でも主導権を握ることを目指して投入された戦略的製品だったのです。
Karmaのコンセプトとモジュラー設計
Karmaの最大の特徴は、その「モジュラー設計」にあります。
一般的なドローンがカメラと機体を一体化させているのに対し、Karmaは以下の要素がそれぞれ独立して機能するシステムとして設計されていました。
- ドローン本体
- 3軸スタビライザー(ジンバル)
- GoProカメラ(HEROシリーズ)
- ハンドグリップ(Karma Grip)
この設計により、ユーザーは空撮だけでなく、スタビライザーを取り外して手持ち撮影に切り替えることが可能でした。
「空でも地上でも、滑らかな映像を撮影できる総合的な映像制作システム」というのが、Karmaの核心的なコンセプトでした。
ドローン愛好家を惹きつけた特徴的なシステム
Karmaは、当時のドローンユーザーが抱えていた課題を解決するいくつかの特徴を持っていました。
特に評価されたのが、タッチディスプレイを内蔵した専用コントローラーです。
当時の多くのドローンは、操作画面としてスマートフォンやタブレットを接続する必要がありましたが、Karmaのコントローラーは高輝度のディスプレイを一体化させていました。
これにより、別途デバイスを用意する手間が省け、屋外でも視認性の高い画面で直感的に操作できる点が、多くの愛好家から注目を集めました。
GoPro Karmaの主要機能と特徴:ドローンからスタビライザーまで
GoPro Karmaは、単に空を飛ぶだけでなく、地上での撮影もサポートする多機能なデバイスでした。
ここでは、その具体的な機能と特徴について詳しく見ていきます。
空撮後にジンバルを付け替えて、すぐに手持ち撮影へ移行できるのが最大の魅力です。
ドローンとしての飛行性能と操作性
ドローンとしてのKarmaは、最高速度約54km/h、最大飛行距離約3,000m、最大飛行時間約20分というスペックを持っていました(カタログ値)。
操作は非常にシンプルで、初心者でも扱いやすいように設計されています。
自動離着陸機能や、ボタン一つで出発地点に戻る「リターン・トゥ・ホーム」機能はもちろん、以下の4つの自動撮影モードを搭載していました。
- ドローン自撮り(Dronie): カメラを被写体に向けたまま、ドローンが上昇・後退する。
- ケーブルカム(Cable Cam): 指定した2点間を自動飛行し、撮影に集中できる。
- オービット(Orbit): 被写体を中心に円を描くように旋回飛行する。
- リビール(Reveal): カメラを下に向けた状態から徐々に水平に戻し、風景を劇的に見せる。
取り外し可能な手持ちスタビライザー「Karma Grip」の魅力
Karmaシステムの真骨頂とも言えるのが、機体前部に装着されたスタビライザーを取り外し、付属のハンドグリップに装着できる点です。
これにより、「Karma Grip」と呼ばれる高性能な手持ちジンバルとして機能しました。
Karma Gripを使用することで、歩行中やスポーツ中の激しい揺れを抑えた、映画のように滑らかな映像を撮影できます。
空撮を終えた直後にスタビライザーを付け替え、地上のアクティビティを撮影するというシームレスな運用が可能でした。
対応するGoProカメラと連携した撮影機能
Karmaはカメラ一体型ではなく、GoProカメラ(HERO5 Black、HERO6 Blackなど、およびハーネス交換でHERO4にも対応)を搭載する仕様でした。
ドローンのコントローラーからカメラの電源オンオフ、録画開始・停止、設定変更などを遠隔操作できる完全な連携機能を有していました。
ユーザーは手持ちのGoProカメラをそのまま活用できるため、すでにGoProを所有しているユーザーにとっては導入のハードルが低いというメリットがありました。
また、カメラ自体が進化すれば、ドローンの撮影画質も向上するという拡張性も備えていました。
持ち運びに便利な折りたたみ式デザイン
携帯性の高さもKarmaの大きな特徴です。
アームとランディングギア(着陸脚)が折りたたみ式になっており、非常にコンパクトに収納できました。
製品には専用のバックパックケース「Karma Case」が標準で付属しており、ドローン本体、コントローラー、Karma Grip、予備バッテリーなどをすべて収納して背負うことができました。
アウトドアアクティビティへの持ち出しを前提としたこのパッケージングは、アクティブなGoProユーザーのライフスタイルに合致したものでした。
過去のリコール問題の真実とGoProの対応
GoPro Karmaを語る上で避けて通れないのが、発売直後に発生したリコール問題です。
ここでは、何が起きたのか、そしてメーカーがどのように対応したのかを事実に基づいて解説します。
発売直後の全数リコールは、GoProのドローン事業に決定的なダメージを与えました。
突然の電源喪失:リコールの背景と影響
2016年10月の発売からわずか数週間後の11月、GoProはKarmaの全数リコール(自主回収)を発表しました。
その理由は、飛行中にドローンの電源が突然喪失し、墜落する恐れがあるという重大な不具合が見つかったためです。
原因は、バッテリーを固定するラッチ機構の設計に問題があり、飛行中の振動によってバッテリーの接続が一時的に途切れてしまうことでした。
この問題により、米国消費者製品安全委員会(CPSC)とも連携し、販売済みの約2,500台すべてが回収対象となりました。
安全性向上のための改善策と再販
リコール発表後、GoProは原因究明と対策に追われました。
技術チームはバッテリーラッチの設計を一新し、振動があってもバッテリーが確実に固定されるよう改良を施しました。
この改修作業を経て、2017年2月頃よりKarmaの販売が再開されました。
再販されたモデルでは物理的な固定機構が強化されており、電源喪失の問題は解消されました。
リコール後の安全性評価とユーザーの反応
再販後のKarmaは、バッテリー脱落による墜落事故の報告は大幅に減少しました。
しかし、一度失墜した信頼を完全に回復するのは容易ではありませんでした。
また、リコール対応を行っている間に、競合他社からはより小型で高性能な折りたたみ式ドローンが登場していました。
市場の競争が激化する中で、「安全性への懸念」というイメージを払拭しきれなかったことは、その後の販売戦略に少なからず影響を与えました。
GoPro Karmaは現在どうなっている?購入・サポート状況
発売から数年が経過した現在、GoPro Karmaを取り巻く状況は大きく変化しています。
ここでは、現在の市場状況とサポート体制について整理します。
現在は公式サポートが終了しているため、実用目的での購入には大きなリスクが伴います。
販売終了の事実と中古市場での入手方法
2018年1月、GoProはドローン事業からの撤退を発表し、Karmaの生産・販売を終了しました。
現在、GoPro公式サイトや正規販売店で新品を購入することはできません。
入手方法は、オークションサイトやフリマアプリ、中古カメラ店などで流通している中古品に限られます。
価格は状態によって大きく異なりますが、コレクターズアイテムとしての側面や、Karma Grip単体の需要などもあり、一定の取引が行われています。
GoPro公式からのサポート体制と現状
販売終了に伴い、GoPro公式によるKarmaのサポート体制も縮小しています。
ファームウェアのアップデートは停止しており、修理受付や交換部品(プロペラ、アーム、ランディングギアなど)の公式供給も終了している場合がほとんどです。
公式サイトのサポートページにはマニュアルやトラブルシューティングの情報が残されていますが、故障時のメーカー修理は期待できない状況です。
中古品購入時に注意すべき点とリスク
現在、中古でKarmaを購入する場合、以下のリスクを考慮する必要があります。
- バッテリーの劣化: ドローンのリチウムポリマーバッテリーは経年劣化します。新品のバッテリーが入手困難なため、飛行時間が極端に短い可能性があります。
- 修理の困難さ: 墜落や故障が発生した場合、交換パーツが入手できず、修理不能になる可能性が高いです。
- アプリの互換性: スマートフォン用アプリやファームウェアが最新のOSに対応していない場合があります。
GoProドローンはKarmaで終わった?市場撤退の背景とGoProのドローン戦略
なぜGoProは、一度参入したドローン市場から撤退することになったのでしょうか。
その背景と、現在のGoProの戦略について解説します。
強豪ひしめくドローン市場での苦戦
GoProが撤退を決断した最大の要因は、ドローン市場における競争の激化です。
特に最大手であるDJIなどの競合メーカーは、技術革新のスピードが非常に速く、Karmaが発売されたのとほぼ同時期に、より小型で、より高性能なセンサーを搭載した折りたたみ式ドローンを市場に投入しました。
価格競争も激しくなり、利益率を維持しながら技術開発競争についていくことが困難になったと判断されました。
また、欧米におけるドローン規制の強化も、市場環境を厳しくした一因とされています。
Karmaが示した可能性と限界
Karmaは「カメラ、ジンバル、ドローンが分離できる」という素晴らしいエコシステムを提案しましたが、ドローン単体としての基本性能(飛行安定性、通信距離、障害物回避機能など)では、当時の最新鋭機に及ばない部分がありました。
アクションカメラメーカーとしての強みである「映像システム」としての完成度は高かったものの、「飛行ロボット」としての技術蓄積において、専業メーカーとの差を埋めることが難しかったと言えます。
GoProの現在のドローン事業と今後の展望
現在、GoProは自社製ドローンの開発・販売は行っていません。
しかし、ドローン市場と無関係になったわけではありません。むしろ、「ドローンに搭載される最高のカメラ」を提供するという、原点のポジションに回帰しています。
近年では、FPV(一人称視点)ドローン向けに極限まで軽量化したカメラの開発や、手ブレ補正機能「HyperSmooth」の強化など、ドローンユーザーを意識した製品開発を続けています。
自社で機体を作るのではなく、あらゆるドローンに搭載できるカメラを提供することで、空撮市場に関わり続けています。
まとめ:GoPro Karmaが残した功績と現在の選択肢
GoPro Karmaは短命に終わりましたが、そのコンセプトは現在のドローン製品にも影響を与えています。
最後に、Karmaの功績と、現在ドローンを選ぶ際のポイントをまとめます。
安全に空撮を楽しむなら、サポートが充実した最新のドローンを選ぶのが賢明です。
Karmaがドローン市場に与えた影響
Karmaが採用した「折りたたみ式アーム」や「コンパクトな収納性」は、その後のコンシューマー向けドローンの標準的なスタイルとなりました。
また、スタビライザーを取り外して地上でも使えるというアイデアは、空撮と地上撮影の垣根を取り払う画期的な提案でした。
GoPro Karmaは、ドローンを「専門的な機材」から「ライフスタイルに寄り添うツール」へと近づけた製品として記憶されています。
現在ドローンを選ぶ際のポイントと現行のGoPro互換機
現在、一般ユーザーがドローンを選ぶ際は、以下のポイントを重視することをおすすめします。
- 安全性と法規制対応: 100g以上の機体登録義務やリモートID対応など、最新の航空法に準拠しているか。
- 障害物回避機能: 初心者でも安全に飛ばせるセンサーが搭載されているか。
- サポート体制: 故障時の修理や消耗品の購入がスムーズに行えるか。
GoPro Karmaはサポートが終了しているため、飛行目的での購入は推奨されません。
安全に空撮を楽しむなら、DJIなどの主要メーカーの現行モデルを選ぶのが賢明です。
GoProユーザーにおすすめのドローンモデル
もしあなたがGoProカメラを持っていて、その画質で空撮をしたいと考えているなら、以下の選択肢があります。
- FPVドローン: 自作または完成品のFPVドローンにGoProを搭載するスタイル。迫力ある映像が撮れますが、高度な操縦技術が必要です。
- GoPro搭載可能な空撮ドローン: 一部のメーカーからは、GoProを搭載できるマウントを備えたドローンも販売されています。
しかし、最も手軽で高品質な空撮を求めるなら、カメラ一体型の最新ドローン(DJI MiniシリーズやAirシリーズなど)を別途導入するのが、コストパフォーマンスと安全性の面で最適解と言えるでしょう。
GoProはアクションカメラとして、ドローンは専用機として使い分けることが、現在のテクノロジー環境における「安心して使える」選択肢です。


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