ドローンを購入したり飛行させたりする際、最も注意しなければならないスペックの一つが「重さ」です。
「たかが重さ」と侮ってはいけません。
なぜなら、日本の法律においてドローンの重量は、その機体が「おもちゃ(模型航空機)」として扱われるか、厳格な規制対象となる「無人航空機」として扱われるかを分ける決定的な境界線だからです。
特に2022年の法改正以降、その基準は大きく変化しました。
「自分のドローンは小さいから大丈夫」「許可不要で飛ばせるはず」という思い込みは、知らぬ間に法律違反を犯してしまうリスクをはらんでいます。
本記事では、ドローンの重さが規制にどう影響するのか、特に重要な「100gの基準」を中心に解説します。
総重量の正しい計算方法から、100g未満の機体にも潜む法的リスク、そして100g以上の機体を合法的に飛ばすための具体的な手続きまでを網羅しました。
これからドローンを始める方も、すでに所有している方も、安全なフライトのためにぜひご一読ください。
ドローンの「重さ」が超重要!100g基準で変わる規制の基礎知識
ドローンの世界において、「重さ」は単なる物理的な数値ではなく、適用される法律を決めるための最も重要な指標です。
まずは、現在の法規制における重さの基準と、なぜその基準が設けられているのかを解説します。
重量100gが法的扱いを決める決定的な境界線です。
100g未満と100g以上で規制はこんなに違う!基本を理解しよう
航空法において、ドローンなどの無人機はその重量によって大きく2つのカテゴリーに分類されます。その境界線となるのが「100g」です。
- 100g以上:無人航空機
航空法の厳しい規制対象となります。機体登録、飛行許可・承認(DID地区や夜間飛行など)、リモートIDの搭載が義務付けられています。 - 100g未満:模型航空機
航空法上は「模型航空機」として扱われます。「無人航空機」としての登録義務や一般的な飛行許可申請は基本的に不要です。
このように、たった1gの差で、法的な扱いが「航空機」か「模型」かに分かれます。
100g以上のドローンを無許可・無登録で飛行させた場合、航空法違反となり処罰の対象となるため、この区分けを正しく理解することは必須です。
200gから100gへ!法改正された背景と目的
かつて、この境界線は「200g」でした。
しかし、2022年6月20日から、航空法の改正により基準が「100g」へと引き下げられました。
主な理由は、ドローンの高性能化と事故リスクの増加です。近年では200g未満の小型ドローンであっても、高画質カメラを搭載し、長距離飛行が可能な高性能な機体が増えました。
たとえ小型であっても、高速で回転するプロペラを持つドローンは、衝突すれば人に怪我を負わせる可能性があります。
100g以上の機体を「無人航空機」として管理し、所有者を明確にすることで、空の安全を確保することがこの法改正の目的です。
ドローンの「総重量」を正確に知る方法と「100gの壁」
「100g以上」という基準における「重さ」とは、具体的にどの状態を指すのでしょうか。
カタログスペックだけで判断すると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。
バッテリーを含む重量が法的基準になる点に注意してください。
総重量に含まれる要素を徹底解剖
航空法におけるドローンの重量とは、「機体本体の重量」と「バッテリーの重量」の合計を指します。
- 重量に含まれるもの
機体本体(フレーム、モーター、内部基盤)、バッテリー。 - 重量に含まれないもの
取り外し可能な付属品(プロペラガード、追加の着陸ギア、後付けのアクションカメラなど)。
ここで重要なのは、「バッテリーは重量に含まれる」という点です。
一方で、安全のためのプロペラガードは、機体登録時の重量判定には含まれません。
例えば、カタログ値で「99g(バッテリー込み)」と記載されているドローンであれば、100g未満の「模型航空機」として扱われます。
しかし、大容量バッテリーに交換して100gを超えた場合、その時点で「無人航空機」となり、登録義務が発生します。
参考:国土交通省 無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール
自宅でできる具体的な計測方法と購入時の注意点
自身のドローンが100gを超えているかどうか不安な場合は、実測することをおすすめします。
- 0.1g単位で計測できるキッチンスケールなどを用意します。
- ドローン本体に、飛行時に使用するバッテリーを装着します。
- プロペラガードなどの付属品はすべて取り外します。
- 秤に乗せて数値を読み取ります。
海外製のドローンを購入する場合、特に注意が必要です。海外では「250g未満」が規制の基準になっていることが多く、海外仕様のままだと日本の100g規制を超えてしまうケースがあります。
「日本仕様(100g未満対応)」として販売されているモデルか、バッテリーが軽量化されているかを必ず確認しましょう。
100g未満ドローンは「許可不要」でも注意すべき落とし穴
「100g未満なら許可不要で自由に飛ばせる」という認識は、半分正解で半分間違いです。
航空法上の厳しい手続きが免除されるだけであり、他の法律や条例、そして最低限の航空ルールは守らなければなりません。
重量に関わらず、重要施設周辺や条例で禁止された場所では飛行できません。
航空法以外にも適用される規制
100g未満のドローン(模型航空機)であっても、以下の規制は遵守する必要があります。
- 小型無人機等飛行禁止法
国会議事堂、首相官邸、原子力発電所などの「重要施設」およびその周囲約300mの上空は、重さに関わらず飛行禁止です。違反すれば警察による検挙の対象となります。 - 地方自治体の条例
多くの公園や公共施設では、条例によってドローンの飛行が禁止されています。東京都の都立公園などが代表例です。 - 電波法
海外製の安価なトイドローンを使用する際は、「技適マーク」が付いている製品を選びましょう。適合していない製品は電波法違反となる恐れがあります。 - 航空法(一部適用)
空港周辺や高度150m以上の飛行は、模型航空機であっても禁止されています。
100g未満ドローンのメリット・デメリット
規制の抜け道を探すのではなく、100g未満ドローンの特性を理解して活用することが大切です。
- メリット
機体登録やリモートIDが不要で手軽に始められる。軽量で衝撃が小さく、室内練習に適している。 - デメリット
風に非常に弱く、屋外での安定飛行が難しい。カメラ性能や通信距離が大型機に劣る。
操作技術を磨くための室内練習や、風の影響を受けない屋内撮影が最適な活用シーンです。
知らずに違反しやすい「落とし穴」事例と対策
100g未満だからといって油断してしまいがちなトラブル事例を紹介します。
- 河川敷での飛行
管理者がドローン飛行を禁止している場所も多いです。事前に河川事務所等のルールを確認しましょう。 - マンションのベランダ
近隣住民から「盗撮」と通報されるリスクがあります。プライバシー侵害や迷惑防止条例違反に問われる可能性があります。 - 道路上空の飛行
低空であっても道路交通法における「交通の妨げ」とみなされる可能性があります。
100g以上ドローンを合法的に飛行させるための全手続き
本格的な空撮や業務でドローンを使う場合、100g以上の機体(無人航空機)が主力となります。
ここでは、法律を守って飛行させるために必要な手続きをステップごとに解説します。
機体登録、リモートID、必要に応じた許可申請の3ステップが必要です。
100g以上ドローンの「機体登録制度」とは?
2022年6月から、すべての無人航空機(100g以上)に登録義務が課されました。登録されていない機体を飛行させることは違法です。
手続きは、国土交通省の「ドローン情報基盤システム2.0(DIPS 2.0)」からオンラインで行います。
- DIPS 2.0でアカウントを開設し、機体情報と所有者情報を入力します。
- マイナンバーカード等で本人確認を行います。
- 手数料(900円~1450円程度)を納付します。
- 発行された登録記号(「JU」から始まる番号)を機体に表示します。
飛行許可・承認が必要な「特定飛行」の条件
機体登録をしただけでは、どこでも自由に飛ばせるわけではありません。
以下の「特定飛行」に該当する場合は、事前に国土交通省への許可・承認申請が必要です。
- 空域に関する規制(許可が必要)
150m以上の高さ、空港等の周辺、人口集中地区(DID)の上空。 - 飛行方法に関する規制(承認が必要)
夜間飛行、目視外飛行、人や物件から30m未満の飛行、イベント上空飛行など。
リモートIDの搭載義務とその必要性
登録制度とセットで義務化されたのが「リモートID」です。これは、ドローンの登録記号や位置情報を電波で発信する、いわば「デジタルのナンバープレート」です。
2022年6月20日以降に登録申請を行った機体には、原則としてリモートID機器の搭載が必須です。
最新の機種は内蔵されていますが、古い機種や自作機の場合は外付け機器の購入が必要です。
飛行計画の通報と安全対策
特定飛行を行う場合、「いつ・どこで・誰が飛ばすか」という飛行計画をDIPS上で事前に通報するルールがあります。
また、飛行マニュアルを作成・携行し、飛行前点検の実施や安全確保のための補助者の配置など、マニュアルに沿った運用を徹底しましょう。
もしも違反したら?ドローン規制違反のリスクと事例
「山奥ならバレないだろう」「少しの時間なら大丈夫」といった考えは非常に危険です。
ドローンの違反は、想像以上に厳しいペナルティと社会的信用の失墜を招きます。
「知らなかった」では済まされない前科のつく刑事罰が存在します。
航空法・小型無人機等飛行禁止法における罰則
ドローン規制に関する法律違反には、明確な罰則規定があります。
- 航空法違反
飲酒時の操縦は1年以下の懲役または30万円以下の罰金。無許可での特定飛行や無登録機体の飛行などは50万円以下の罰金。 - 小型無人機等飛行禁止法違反
重要施設周辺での飛行などは1年以下の懲役または50万円以下の罰金。
プライバシー侵害・器物損壊など民事上の責任
刑事罰だけでなく、民事上の責任も重大です。
マンションや民家を撮影してSNSに公開すればプライバシー侵害で訴えられる可能性があります。
また、落下により人や車に損害を与えた場合、数千万円から億単位の賠償責任が発生するケースも想定されます。
実際にあったドローン規制違反の教訓的ケーススタディ
実際に違反が発覚し、書類送検された事例も少なくありません。
- SNSへの動画投稿で発覚
夜景の空撮動画をYouTubeにアップロードしたところ、視聴者の通報により無許可の夜間飛行が発覚し、書類送検された事例。 - イベント会場での落下事故
無許可でイベント上空を飛行させ、観客に落下させて怪我を負わせた事例。 - 重要施設周辺での飛行
皇居や基地周辺で「知らずに」飛ばし、警備中の警察官に検挙されるケース。
あなたに最適なドローンは?用途別「重さ」で選ぶ基準
規制の内容を理解した上で、自分にはどの「重さ」のドローンが適しているのかを判断しましょう。
【診断チャート】あなたの利用目的から最適なドローンを導き出す
- とにかく手軽に家の中で練習したい
👉 100g未満のトイドローンがおすすめ。 - 旅行先でちょっとした記念撮影がしたい
👉 100g未満の高性能トイドローンがおすすめ(※風には注意)。 - 綺麗な4K動画を撮りたい・仕事で使いたい
👉 100g以上の無人航空機(登録必須)が必須。
初心者・室内練習向け:規制の少ない100g未満ドローン
100g未満の最大の魅力は、「購入してすぐに飛ばせる」「場所を選ばない(屋内など)」点です。
DJI TelloやHoly Stoneなどの小型トイドローンは安価で壊れにくく、航空法の煩雑な手続きなしで操縦の楽しさを体験できます。
まずはここから始めて、操作に慣れるのが賢いステップです。
本格空撮・業務利用向け:高機能100g以上ドローン
美しい空撮映像や安定した飛行を求めるなら、100g以上の機体一択です。
DJI Mini 4 ProやMavic 3シリーズなどは、GPS制御や障害物回避センサーなど性能が段違いです。
購入前に「DIPSでの機体登録」が必要であることを認識し、包括申請の取得も検討しましょう。
【独自視点】ドローン規制の国際比較と未来予測
日本のドローン規制は世界的に見て厳しいのでしょうか?少し視野を広げて解説します。
日本のドローン規制は世界基準?主要国の規制と比較
実は、日本の「100g規制」は世界的に見てもかなり厳しい部類に入ります。
アメリカ(FAA)やEU(EASA)では、登録基準の目安として「250g」が広く採用されています。
日本が100gに引き下げたのは、人口密度の高さや都市部の安全確保を最優先した結果と言えます。
ドローン技術の進化が今後の規制に与える影響
リモートIDの普及により、将来的には「空の交通整理」が自動化され、都市部での物流ドローンなどの運用が進むと考えられます。
また、AIによる障害物回避能力が向上すれば、「機械が安全を担保する」ことを前提に、新たなルール作りや規制緩和が進むかもしれません。
まとめ:ドローンの「重さ」を理解し、安全な空の旅へ
ドローンの重さは、単なる数字ではなく、安全と責任の境界線です。
100gという基準を正しく理解し、適切な手続きを行うことが、あなた自身と周囲の安全を守る第一歩となります。
ドローン飛行前に必ずチェックしたいことリスト
- 機体の重量確認:バッテリーを含めて100g以上か未満か?
- 機体登録:100g以上の場合、DIPSで登録済みか?
- リモートID:正常に作動しているか?
- 飛行場所の確認:DID地区、空港周辺、重要施設周辺ではないか?
- 許可・承認:特定飛行に該当する場合、許可を取得しているか?
ドローンは素晴らしいテクノロジーであり、私たちの視点を空へと広げてくれます。
規制は「飛ばさせないため」にあるのではなく、「安全に飛ばすため」にあります。
法令を遵守し、必要であればドローン保険にも加入して万が一に備えましょう。
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