海や湖、川の中を自由に探索し、未知の世界を映像に収めることができる「水中ドローン」。
空を飛ぶドローンが一般的になる中、近年では水中を潜航できるドローンの技術も急速に進化しており、趣味の撮影からインフラ点検、漁業支援まで幅広い分野で注目を集めています。
しかし、空撮用ドローンとは異なり、水中ならではの通信事情や操作方法があるため、「何を選べばいいのか」「操縦は難しいのか」といった疑問を持つ方も少なくありません。
本記事では、水中ドローンの基礎知識から、用途に合わせた選び方、主要メーカーの特徴、そして安全に運用するための資格やルールまでを体系的に解説します。
これから水中ドローンを始めたいと考えている方が、安心して最初の一歩を踏み出せるよう、事実に基づいた情報を整理してお届けします。
水中ドローンとは?空撮用ドローンとの違いや魅力
水中ドローンとは、遠隔操作または自律制御によって水中を潜航し、撮影や調査、作業を行う小型無人潜水機の総称です。
一般的には、地上からケーブルで接続して操作する「ROV(Remotely Operated Vehicle)」と、プログラムによって自律的に航行する「AUV(Autonomous Underwater Vehicle)」の2種類に大別されます。
現在市販されている水中ドローンの多くは、リアルタイム操作が可能なROVタイプです。
水中ドローンでできること・主な用途
水中ドローンは、人間が潜ることが難しい深さや危険な場所でも安全に活動できるため、多岐にわたる用途で活用されています。
- 水中撮影・映像制作:4Kカメラなどを搭載し、ダイバー視点のような美しい海中映像を撮影できます。
- インフラ点検:港湾施設、ダム、橋脚、船底などの劣化状況を水抜きせずに確認できます。
- 水産業・養殖業:養殖網の点検や魚の生育状況の観察に利用され、作業の効率化に貢献しています。
- 捜索・救助支援:水難事故などの際、ダイバーが潜る前の安全確認や捜索活動を支援します。
水中ドローンの仕組みと空撮ドローンとの違い
水中ドローンと空撮用ドローンの最大の違いは「通信方式」にあります。
電波は水中ではほとんど伝わらないため、空撮ドローンのような無線操縦は一般的ではありません。
そのため、多くの水中ドローン(ROV)は、操縦機と機体を「テザーケーブル」と呼ばれる通信ケーブルで物理的に接続する有線方式を採用しています。
機体には、水中での移動を制御する「スラスター(推進器)」、映像を送る「カメラ」、暗い水中を照らす「LEDライト」、深度や方位を検知する「センサー」などが搭載されています。
また、水中での安定性を保つために、浮力と重力のバランス(中性浮力)が精密に設計されている点も大きな特徴です。
水中ドローンのメリット・デメリット
水中ドローンを導入する際には、その特性を理解しておくことが重要です。
メリット
- 安全性:人間が潜るリスクを回避し、安全な場所から水中の状況を確認できます。
- 長時間稼働:有線給電タイプの場合、バッテリー切れを気にせず長時間の調査が可能です。
- リアルタイム確認:ケーブルを通じて遅延の少ない鮮明な映像を地上で確認できます。
デメリット・注意点
- ケーブルの管理:有線であるため、ケーブルが岩や障害物に絡まるリスクがあり、取り回しに技術が必要です。
- 移動範囲の制限:ケーブルの長さ以上に遠くへ行くことはできません。
- 潮流の影響:強い流れがある場所では、機体が流されて制御が難しくなる場合があります。
水中ドローンの選び方|用途・性能・価格で比較
水中ドローンは製品によって性能や価格が大きく異なるため、自身の目的に合ったモデルを選ぶことが重要です。ここでは選定の基準となるポイントを解説します。
どのような目的で使うかを明確にする
まずは「何のために使うのか」を明確にしましょう。
- レジャー・趣味(釣り・撮影):持ち運びやすさや操作の簡単さを重視します。小型で軽量なモデルが適しています。
- 産業利用(点検・調査):高画質なカメラ、強力なライト、深度維持機能、アームなどの拡張性が求められます。耐久性やサポート体制も重要です。
性能・機能で選ぶポイント
スペック表を確認する際は、以下の項目に注目してください。
- 潜水深度:どのくらいの深さまで潜れるか。レジャー用でも数十メートル、産業用では100メートル以上潜れるものがあります。
- カメラ性能:解像度(4Kなど)、レンズの明るさ、手ブレ補正の有無。暗い水中ではライトの明るさ(ルーメン数)も重要です。
- バッテリー持続時間:1回の充電でどれくらい稼働できるか。交換式バッテリーかどうかも確認ポイントです。
- スラスターの数と自由度:スラスターが多いほど、横移動や回転など複雑な動きが可能になり、潮流への耐性も高まります。
海で使用する場合は、潮流に負けないパワーがあるかどうかが重要なチェックポイントです。
予算と価格帯で比較する
水中ドローンの価格は、数万円のエントリーモデルから、数百万円する産業用モデルまで幅広く存在します。
- エントリーモデル:数万円〜20万円程度。基本的な撮影機能と操作性を備え、個人の趣味利用に適しています。
- ミドルレンジモデル:20万円〜50万円程度。より深い深度への対応や、アームなどのオプション装着が可能になる機種が増えます。
- プロフェッショナルモデル:100万円以上。高度な姿勢制御、大容量バッテリー、ソナーなどの特殊センサー搭載が可能で、業務利用を前提としています。
主要水中ドローンメーカーとおすすめ製品【比較一覧】
市場にはいくつかの主要な水中ドローンメーカーが存在し、それぞれ特徴ある製品を展開しています。ここでは代表的なメーカーと、比較検討の際に役立つ視点を紹介します。
各メーカーの特徴と主力製品
現在、水中ドローン市場で広く知られているメーカーには、CHASING(チェイシング)やQYSEA(キューシー)などがあります。
- CHASING:「GLADIUS」シリーズや「CHASING M2」シリーズなどで知られ、初心者向けの小型機から産業用の高機能機まで幅広いラインナップを持っています。操作性の良さとコストパフォーマンスに定評があります。
- QYSEA:「FIFISH」シリーズを展開しており、全方位への自由な移動が可能な運動性能や、クリエイティブな撮影機能を強みとしています。
これらのメーカーは日本国内にも代理店が多く、サポートを受けやすい環境が整いつつあります。
おすすめ水中ドローン比較表
製品を比較検討する際は、以下の項目をリスト化してチェックすることをおすすめします。
| 比較項目 | チェックポイント |
|---|---|
| 最大深度 | 目的の場所(海、ダム、水槽)に対し十分なスペックか |
| カメラ画質 | 4K対応か、暗所性能はどうか |
| 稼働時間 | バッテリー交換は可能か、給電システムはあるか |
| サイズ・重量 | 持ち運びは容易か(手持ちか、車両が必要か) |
| 拡張性 | ロボットアームや追加ライト、ソナー等を装着できるか |
初心者向け・プロ向けなど目的別おすすめモデル
初心者・レジャー向け
小型で軽量、リュックに入れて持ち運べるモデルがおすすめです。セットアップが簡単で、スマホやタブレットで手軽に映像を確認できる機種を選びましょう。
プロ・業務利用向け
8基以上のスラスターを搭載し、全方位移動が可能なモデルや、有線給電に対応して長時間作業ができるモデルが推奨されます。
また、濁った水中でも視界を確保できるソナー等のオプションに対応しているかも重要な選定基準です。
購入後の修理やメンテナンスを考慮し、国内に正規代理店があるメーカーを選ぶのが安心です。
水中ドローンを始めるには?購入・レンタル・操縦方法
水中ドローンを実際に使い始めるためのステップを解説します。購入だけでなく、レンタルという選択肢もあります。
水中ドローンを購入する際のポイントと注意点
購入時は、機体本体の価格だけでなく、予備バッテリーや専用ケース、メンテナンスキットなどの周辺機器も含めた総額で予算を組むことが大切です。
また、海外メーカー製品が多いため、日本国内に正規代理店があり、修理やメンテナンスのサポート体制が整っている店舗から購入することを強く推奨します。
水中ドローンをレンタルするメリットとサービス比較
「まずは試してみたい」「特定の期間だけ使いたい」という場合は、レンタルサービスの利用が便利です。
- メリット:高額な機体を購入せずに最新機種を利用できる。メンテナンスの手間が省ける。
- サービス内容:多くのレンタル業者では、機体一式(本体、ケーブル、コントローラー)を数日から数週間単位で貸し出しています。
- 比較ポイント:料金体系(日数計算か泊数計算か)、補償制度(故障時の免責など)、返却方法(送料負担など)を確認しましょう。
水中ドローンの基本的な操縦方法と練習のコツ
水中ドローンの操縦は、コントローラーと画面上の映像を見ながら行います。
- 接続:機体とテザーケーブル、コントローラー、表示端末(スマホ等)を接続し、電源を入れます。
- 入水:ケーブルに負荷がかからないよう、ゆっくりと機体を水に入れます。
- 操作:前進・後退、浮上・潜行、旋回などの基本操作を確認します。
多くの機種には、深度を固定する「デプスロック」や、角度を固定する機能があり、これらを活用すると撮影が安定します。
いきなり海で使用せず、まずは波のないプールや水槽で機体の挙動やケーブルの取り回しに慣れましょう。
水中ドローンの資格・スキルと安全な運用ガイドライン
水中ドローンを安全かつ適切に運用するためには、知識とスキルが必要です。資格の有無や守るべきルールについて解説します。
水中ドローン操縦に役立つ資格の種類と取得方法
現時点では、水中ドローンの操縦に関して、自動車免許のような法的に必須となる国家資格は確認されていません。誰でも購入して操作することが可能です。
しかし、安全管理や操縦技術を証明するために、民間団体が認定する資格(検定)が存在します。
これらを取得することで、体系的な知識(機体の仕組み、安全管理、法令など)と実技スキルを習得でき、ビジネスで利用する際の信頼性向上に役立ちます。
安全運用に必要な基礎知識と法規制
水中ドローンを運用する際は、以下の点に注意が必要です。
- エリアの確認:港湾法や海上交通安全法、漁業権などが関わる場所では、事前の許可や調整が必要な場合があります。管理者がいる水域では必ず確認を取りましょう。
- 周囲の安全:遊泳者や船舶、釣り人が近くにいる場所での使用は避け、安全距離を保ちます。
- バッテリー管理:リチウムイオンバッテリーの取り扱いには注意し、保管や充電はメーカーの指示に従ってください。
運用時のトラブル事例と対策
よくあるトラブルとして、「ケーブルの絡まり」と「ロスト(紛失)」が挙げられます。
- ケーブルの絡まり:岩や海藻、スクリューなどにケーブルが絡まると回収不能になります。ケーブルのたるみを適切に管理し、障害物の近くでは慎重に操作します。
- 通信途絶:ケーブルが断線したり外れたりすると操作不能になります。無理な引っ張りを避け、定期的にケーブルの状態を点検することが重要です。
ケーブルの管理は水中ドローン運用で最も重要なスキルの一つです。
水中ドローンの活用事例と市場動向・将来性
最後に、水中ドローンが実際にどのように使われているのか、そして今後の市場がどうなっていくのかを見ていきましょう。
個人・ビジネスにおける水中ドローンの活用事例
- 個人利用:釣り場のポイント探し、ダイビングスポットの事前調査、子供との自然観察など、レジャーの幅を広げるツールとして楽しまれています。
- 海洋土木:護岸工事の進捗確認や完了検査。
- ダム・水管橋:老朽化対策のための定期点検。
- 水産業:養殖生簀(いけす)内の死魚確認や網の補修箇所の特定。
- 環境調査:海底ごみの分布調査やサンゴ礁のモニタリング。
水中ドローン市場の最新トレンドと技術革新
水中ドローン市場は成長を続けており、技術面でも進化が見られます。
- AI・自動化:映像解析による異常検知や、障害物を自動で回避する機能の研究が進んでいます。
- ケーブルレス化:音波通信や光通信などを活用し、ケーブルの制約を受けないAUV(自律型)の実用化が進んでいます。
- バッテリー性能向上:より長時間、より深く潜れる機体の開発が行われています。
水中ドローン関連の主要企業と投資・事業機会
水中ドローン産業には、機体メーカーだけでなく、通信技術、センサー開発、海洋調査サービスを提供する企業など、多くのプレイヤーが関わっています。
市場を牽引する機体メーカーに加え、海洋開発やインフラ点検を手掛ける大手企業や上場企業も、水中ドローンの活用や技術開発に注目しています。
今後、海洋資源の活用やインフラ維持管理の効率化が求められる中で、水中ドローンに関連するビジネスチャンスはさらに拡大していくと考えられます。
まとめ
水中ドローンは、これまで専門家やダイバーに限られていた「水中の視点」を、誰でも手軽に得られるようにした革新的なテクノロジーです。
- 仕組み:基本は有線(ROV)で、リアルタイム映像を見ながら操作します。
- 選び方:趣味なら小型・軽量モデル、業務なら拡張性と耐久性を重視しましょう。
- 始め方:購入だけでなくレンタルも有効。まずはプール等で練習することが大切です。
- 安全性:法的な必須資格はありませんが、民間資格での学習や、法令・ルールの遵守が安全運用の鍵です。
空のドローンと同様に、水中ドローンも今後ますます身近な存在になっていくでしょう。この記事を参考に、ぜひ水中の新しい世界へ挑戦してみてください。


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