ドローンを購入する際、あるいは飛行計画を立てる際、「このドローンはどれくらい遠くまで飛べるのか?」「実際にどこまで飛ばして良いのか?」という疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。
ドローンの「飛行距離」には、機体の性能としての限界と、法律やルールによる制限という2つの側面があります。
カタログスペック上の数字だけで判断して飛ばしてしまうと、予期せぬ通信途絶による墜落事故や、知らず知らずのうちに法規制に違反してしまうリスクがあります。
本記事では、ドローンの飛行距離に関する基礎知識から、実際に飛行可能なエリアを調べる方法、そして安全に長距離飛行を行うためのポイントを体系的に解説します。
FlyMovie Techの理念である「誰もが安心してテクノロジーを使えるようにする」に基づき、初心者の方にも分かりやすく整理してお届けします。
ドローンの飛行距離とは?「航続距離」と「伝送距離」の基本
ドローンのスペック表を見ると、距離に関する項目がいくつか記載されています。
まずは「飛行距離」を構成する2つの重要な要素、「航続距離」と「伝送距離」の違いを正しく理解しましょう。
航続距離:バッテリーによる飛行可能時間と移動距離
航続距離とは、ドローンが1回の充電(バッテリー満充電時)で物理的に移動できる最大距離のことです。
これは主にバッテリー容量と機体の消費電力、そして飛行速度によって決まります。
一般的に、カタログに記載されている「最大飛行距離」や「最大飛行時間」は、無風状態で一定の速度で飛行し続けた場合の理論値です。
実際の飛行では、離陸や着陸、ホバリング、加減速、風への抵抗などで電力を消費するため、カタログ値よりも短くなる傾向があります。
伝送距離:電波による通信可能範囲と安定性
伝送距離とは、操縦者が持つコントローラー(送信機)とドローン本体との間で、電波が届く最大距離のことです。
この範囲内であれば、映像の確認や機体の操作が可能です。
伝送距離が限界を超えると、手元の画面(FPV映像)が途切れたり、操作不能になったりします。
多くのドローンには、電波が途切れた際に自動で離陸地点に戻る「リターントゥホーム(RTH)」機能が備わっていますが、安全な運用のために最も重視すべきスペックの一つです。
カタログ値は「理想的な環境」での数値であり、実環境では短くなることを前提に考えましょう。
ドローンタイプ別の飛行距離目安(トイ・一般・産業用)
ドローンの種類や通信方式によって、飛行できる距離は大きく異なります。
- トイ・ホビードローン(スマートフォン/Wi-Fi接続)
スマートフォンをコントローラーとして使用するタイプや、小型のトイドローンは、主にWi-Fiを利用して通信します。この場合の伝送距離は短く、一般的に約80m~100m程度が限界とされています。風の影響も受けやすいため、屋内や近距離での使用が前提となります。 - 一般向け空撮ドローン(専用送信機使用)
専用の送信機(プロポ)を使用する空撮用ドローンは、独自の通信システムを採用しており、伝送距離が大幅に伸びます。機種によりますが、数kmから、上位モデルでは最大10km以上の伝送距離を持つものもあります。ただし、これは障害物のない理想的な環境での数値です。 - 産業用ドローン
点検や物流、測量などに使われる産業用ドローンは、長時間の飛行と長距離の伝送に特化しています。バッテリーを複数搭載して航続距離を伸ばしたり、より強力な通信システムを搭載したりしています。
ドローンの飛行距離に影響を与える要因と安全な飛行のコツ
メーカーが公表している「最大伝送距離」や「最大飛行時間」は、あくまで理想的な条件下での数値です。
実際の運用では、さまざまな要因によって飛行可能な距離は変化します。
バッテリー残量と飛行時間の関係性
バッテリー残量は、飛行距離に直結する最も基本的な要素です。
特に注意が必要なのは、ドローンは「行き」だけでなく「帰り」の電力も必要とする点です。
ギリギリまで遠くへ飛ばしてしまうと、帰還するためのバッテリーが不足し、強制着陸や墜落のリスクが高まります。
一般的には、バッテリー残量が30%~40%程度になった時点で帰還を開始するなど、余裕を持った運用が求められます。
バッテリー残量が30%~40%になったら、必ず帰還を開始してください。
電波環境(干渉・障害物)が伝送距離に与える影響
電波は障害物や他の電波の影響を受けます。以下のような環境では、カタログスペックよりも伝送距離が著しく短くなる可能性があります。
- 障害物:ビル、山、木々などが機体と送信機の間にあると、電波が遮断されます。
- 電波干渉:市街地や住宅地など、Wi-Fiルーターや電子機器が多く存在する場所では、電波が混信し、通信距離が短くなることがあります。
気象条件(風・気温)が飛行安定性に与える影響
風や気温も飛行距離(航続距離)に大きく影響します。
- 風:向かい風の中を進む場合や、ホバリングで位置を維持しようとする場合、モーターの出力が上がり、バッテリー消費が激しくなります。
- 気温:リチウムポリマーバッテリーは寒さに弱く、低温環境下では電圧が低下しやすいため、本来の性能を発揮できず飛行時間が短くなります。
目視外飛行の制限と安全確保のためのポイント
技術的に数km先まで飛ばせる性能があっても、日本の航空法では原則として「目視内飛行(操縦者が自分の目で機体を見ながら操縦すること)」が義務付けられています。
モニター画面だけを見て操縦する「目視外飛行」を行う場合は、事前に国土交通省の承認が必要です。
また、目視外飛行を行う際は、補助者を配置して安全確認を行うなどの対策が求められます。
どこまで飛ばせる?ドローン飛行可能エリアと法規制を徹底解説
「性能的に飛べる距離」と「法律的に飛ばして良いエリア」は別物です。
ここでは、実際にドローンを飛ばす際に確認すべきエリアと法規制について解説します。
飛行禁止エリアと飛行許可・承認が必要な空域
航空法により、以下の空域でドローン(重量100g以上)を飛行させる場合は、国土交通省の許可が必要です。
- 空港等の周辺:航空機の安全確保のため、空港周辺は飛行禁止です。
- 緊急用務空域:災害時などに指定される空域です。
- 150m以上の高さの空域:地表または水面から150m以上の高さは原則禁止です。
- 人口集中地区(DID地区):人家が密集している地域の上空は、安全確保のため原則禁止されています。
飛行可能エリアを調べるためのツールと活用方法(DIPS、地理院地図など)
飛行予定地が上記の禁止エリアに該当するかどうかは、以下の公的なツールを使って正確に確認する必要があります。
- 国土地理院地図:「人口集中地区」を地図上で確認できます。Webブラウザで閲覧可能です。
- ドローン情報基盤システム(DIPS 2.0):国土交通省が運営するシステムです。飛行許可申請だけでなく、飛行計画の通報機能を通じて、他のドローンとの接近リスクや飛行禁止エリアの確認が可能です。
これらのツールを活用し、事前に飛行エリアの状況を把握することが、法令遵守の第一歩です。
飛行前には必ずDIPS 2.0や国土地理院地図で、飛行禁止エリアに該当しないか確認しましょう。
航空法と小型無人機等飛行禁止法の主要なポイント
航空法以外にも、「小型無人機等飛行禁止法」という法律があります。
これは、国の重要施設(国会議事堂、首相官邸、外国公館、原子力事業所など)の周辺地域(周囲約300m)での飛行を禁止するものです。
この法律による規制エリアは、航空法の許可を持っていても飛行できません(対象施設の管理者の同意など、特別な手続きが必要)。
重要施設の周辺で飛ばす際は、必ず警察庁や各施設の情報を確認してください。
飛行ルール違反による罰則と未然に防ぐための注意点
飛行禁止エリアでの無許可飛行や、飲酒時の操縦、危険な飛行などを行った場合、航空法に基づき罰金刑などが科される可能性があります。
また、事故を起こした場合は損害賠償責任も発生します。
「知らなかった」では済まされないため、飛行前には必ず最新のマップを確認し、必要な許可・承認を取得する習慣をつけましょう。
安全な長距離飛行を実現する技術と実践的な運用のヒント
業務や本格的な空撮で、目視外を含む長距離飛行を行う必要がある場合、どのような技術や準備が必要になるのでしょうか。
飛行距離を伸ばす最新技術(中継器・LTE通信ドローン)
ドローンの通信距離を伸ばすための技術開発が進んでいます。
- 映像伝送技術の進化:DJIの「OcuSync」などの独自伝送技術により、数km先でも安定した高画質映像の伝送が可能になっています。
- LTE通信(上空利用):携帯電話回線(LTE/4G/5G)を利用してドローンを制御する技術です。通信エリア内であれば、理論上は距離の制約なく(見通しが悪くても)制御が可能になります。ただし、上空でのLTE利用には対応した機体とプラン、および適切な手続きが必要です。
バッテリーマネジメントと予備バッテリーの活用術
長距離飛行ではバッテリー管理が命綱です。
- 予備バッテリー:1回の飛行で完結させようとせず、複数のバッテリーを用意して、こまめに着陸・交換を行う計画を立てます。
- 温度管理:冬場はバッテリーを保温ケースに入れるなどして、性能低下を防ぎます。
フェイルセーフ機能と緊急時の対処法
万が一、通信が途絶えた場合に備え、フェイルセーフ機能の設定を必ず確認します。
- リターントゥホーム(RTH)高度の設定:自動帰還する際の高度を、周囲の障害物(ビルや木)よりも高く設定しておきます。低すぎると帰還中に衝突する恐れがあります。
- ホームポイントの更新:移動しながら操縦する場合、離陸地点ではなく操縦者の現在位置をホームポイントに更新する機能などを活用します。
RTH高度は、周囲の最も高い障害物よりも高く設定しておくことが重要です。
事前準備と綿密な飛行計画の重要性
長距離飛行を成功させる鍵は、事前の計画にあります。
- ロケハン:実際に現地に行き、障害物の有無や離着陸ポイントを確認します。
- 飛行ルート作成:どこを通り、どの高度で飛ぶかを事前に決め、DIPSなどで飛行計画を通報します。
- 監視体制:目視外飛行の場合は、補助者を配置して周囲の安全を確認する体制を整えます。
【目的別】長距離飛行ドローン選定のポイントと活用事例
最後に、長距離飛行を前提としたドローン選びのポイントを目的別に紹介します。
空撮・測量に最適な長距離飛行ドローンの選び方
風景の空撮や広範囲の測量を行う場合、以下の点が重要になります。
- 伝送システムの信頼性:カタログ上の距離だけでなく、通信の安定性(耐干渉性)が高いモデルを選びます。
- 飛行時間:1回の飛行で効率よく撮影・計測できるよう、実飛行時間が長いモデル(30分~40分以上など)が有利です。
産業用ドローンにおける長距離飛行のメリットと具体的な事例
産業分野では、長距離飛行性能が業務効率に直結します。
- インフラ点検:送電線やパイプラインなど、長大な設備の点検を一度に行えます。
- 物流・配送:離島や山間部への物資輸送において、長距離航続性能が不可欠です。
- 災害調査:人が立ち入れない広範囲の被災状況を迅速に把握できます。
長距離飛行を叶えるおすすめドローン紹介
一般ユーザーが入手しやすく、伝送性能に優れたモデルの例を挙げます。
- DJI Mini 4 Pro:249g未満(バッテリーによる)の小型軽量機ながら、上位機種と同等の映像伝送システム(DJI O4)を搭載し、最大伝送距離(日本国内仕様でも数km以上)と安定性を確保しています。
- DJI Air 3:中型機としてバランスが良く、デュアルカメラと長時間バッテリー、次世代の伝送システムを搭載しており、安定した長距離飛行が可能です。
- DJI Mavic 3 シリーズ:プロ向けの空撮機で、圧倒的な飛行時間と伝送安定性を誇ります。全方向障害物検知機能も優秀で、長距離飛行時の安全性が高いモデルです。
まとめ
ドローンの飛行距離について、機体性能としての「航続距離・伝送距離」と、法規制による「飛行可能エリア」の両面から解説しました。
- スペックの理解:カタログ値は理想値であり、実際の飛行距離は環境(風、障害物、電波干渉)によって短くなることを前提にする。
- 通信方式の違い:スマホ接続(Wi-Fi)は近距離用、専用送信機は長距離用と理解する。
- 法規制の遵守:性能上は遠くまで飛べても、航空法(目視内飛行、DID地区など)や小型無人機等飛行禁止法による制限がある。
- ツールの活用:DIPSや地理院地図を使って、正確な飛行可能エリアを確認する。
ドローンの性能は日々進化し、より遠くへ、より長く飛べるようになっています。
しかし、その性能を享受するためには、正しい知識と安全への配慮が不可欠です。
自身の目的に合ったドローンを選び、ルールを守って安全に空の旅を楽しんでください。


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