近年、空を飛ぶドローンだけでなく、海や川で活躍する「水中ドローン(ROV)」がビジネスの現場で注目を集めています。
「水中ドローンを仕事にしたい」と考える方に向けて、現在どのような仕事が存在するのか、未経験から始めるにはどのようなステップが必要なのかを解説します。
本記事では、水中ドローンの具体的な活用事例から、仕事にするメリット・デメリット、必要な準備、そして将来性までを体系的に整理しました。
テクノロジーを活用した新しい働き方に関心がある方は、ぜひ参考にしてください。
水中ドローンで仕事はできる?活用事例・始め方から必要な準備を徹底解説
趣味の枠を超え、産業界で潜水士を支援するツールとして需要が急増しています。
水中ドローン(通称:ROV / Remotely Operated Vehicle)は、かつては専門的な海洋調査機関だけが扱う高価な機材でした。
しかし、近年の技術進化により小型化・高性能化が進み、民間企業や個人事業主でも扱えるツールとなりました。
現在、水中ドローンは単なる趣味の撮影機材にとどまらず、インフラ点検、水産業、調査研究など、多岐にわたる分野で「仕事」として成立しています。
特に、これまで潜水士(ダイバー)が危険を冒して行っていた作業を代替・支援するツールとして、産業界からの需要が高まっています。
これから水中ドローンを仕事にするためには、まず「どの分野で活用されているか」を知り、自身の目指す方向性を定めることが重要です。
水中ドローンでできる仕事の種類と具体的な活用事例
主要な4つの分野における具体的な仕事内容を把握しましょう。
水中ドローンが実際にどのような現場で導入されているのか、主要な4つの分野における具体的な仕事内容と活用事例を紹介します。
水中調査・研究(海洋生物、水質、地形調査など)
学術機関や環境調査会社において、水中ドローンは重要な調査ツールとして活用されています。
具体的には、海洋生物の生態系調査や、水質調査、海底の地形調査などが挙げられます。また、不法投棄物の捜索など、環境保全に関わる業務でも利用されています。
人間が潜ることが困難な深海や、視界が悪く危険な濁度の高い水域でも、安全に調査を行える点が評価されています。
漁業・養殖業の効率化と管理
水産業の現場では「スマート漁業」の一環として水中ドローンの導入が進んでいます。
養殖業においては、養殖魚の健康状態の確認や、生簀(いけす)内の調査、海産物の生育状況のモニタリングに使用されます。
また、定置網の状態監視や破損箇所の確認にも利用されており、これまで潜水士に依頼していた点検作業をドローンで代替することで、コスト削減と労働負担の軽減を実現しています。
水中インフラの点検・保守(ダム、橋脚、港湾設備など)
水中にある構造物の維持管理は、水中ドローンの需要が特に高い分野の一つです。
ダム、橋脚、港湾設備、発電所の取水口・放水口、製鉄所の取水口、岸壁、河川、下水道など、多岐にわたるインフラ設備の点検に活用されています。
また、船舶の船底やスクリューの点検も行われています。
激しい水流がある場所や深海など、人間にとって危険な環境でも安定した点検が可能であり、インフラの老朽化対策として重要な役割を担っています。
映像制作・水中撮影(テレビ、映画、観光プロモーションなど)
高画質なカメラを搭載した水中ドローンは、映像制作の現場でも活躍しています。
テレビ番組や映画の水中シーン撮影、観光地のプロモーション映像の制作などが主な仕事です。
また、エンターテインメント以外でも、造船所での点検時の記録撮影や、船の修理前後のビフォーアフター撮影といった実務的な撮影業務も存在します。
さらに、事故現場での捜索・救助活動において、状況確認のために映像が活用されるケースもあります。
水中ドローンを仕事にするメリット・デメリット
安全性と効率化が最大のメリットですが、初期費用や法規制の確認も必要です。
水中ドローンをビジネスとして取り組む際には、その利点だけでなく、課題についても理解しておく必要があります。
水中ドローンを仕事にするメリット(業務効率化、安全性向上、新規事業創出など)
最大のメリットは「安全性向上」と「業務効率化」です。
従来、冷たい水中や汚染された水域、複雑な構造物の内部など、危険を伴う場所には潜水士が潜る必要がありました。
水中ドローンを活用することで、これらの危険作業を無人化・代替でき、人身事故のリスクを低減できます。
また、潜水士の手配にかかるコストや時間を削減できるため、頻繁な点検が可能になり、生産性の向上につながります。
例えば、海洋構造物の点検において作業効率が150%向上した事例も報告されています。少人数での運用が可能であるため、労働力不足の解消にも寄与します。
挑戦する前に知っておきたいデメリットと課題(初期費用、技術習得、法規制など)
一方で、導入にはいくつかの課題も存在します。
まず、業務レベルで使用できる高性能な水中ドローンは、機体本体や周辺機器(ケーブル、モニター、バッテリー等)の導入に一定の初期費用がかかります。
また、水中は空中に比べて通信や制御が難しく、潮流の影響も受けるため、安定した操作を行うには技術の習得が必要です。
さらに、海や河川を利用する際には、地域の漁業権や港則法、海上運送法などの法規制やルールを確認し、関係各所との調整が必要になる場合があります。
これらの準備や調整コストは、事業を始める上でのハードルとなり得ます。
水中ドローンを仕事にするための具体的な始め方・手順
市場リサーチから案件獲得まで、4つのステップで進めましょう。
未経験から水中ドローン事業を始めるための一般的なプロセスを、4つのステップで解説します。
【ステップ1】水中ドローンと関連業界に関する情報収集・市場理解
まずは、水中ドローンがどのような業界で求められているか、市場のニーズを理解することから始めます。
インフラ点検、水産業、映像制作など、自分が参入したい分野を定め、その分野でどのような課題(コスト削減、安全性確保など)があるかをリサーチします。
【ステップ2】必要な機材の選定と基礎スキルの習得
ターゲットとする業務に合わせて機材を選定します。
点検業務であれば高輝度ライトやソナーが必要になる場合があり、映像制作であればカメラ性能が重視されます。
機材を入手したら、プールや許可された水域で操作練習を行い、潮流のある環境でも安定して操縦できる基礎スキルを身につけます。
【ステップ3】事業計画の策定と法的準備(個人事業主・法人向け)
仕事として行う以上、事業計画の策定が必要です。機材の償却期間や想定される収益モデルを検討します。
また、個人事業主として開業届を出すか、法人化するかを検討し、必要な手続きを行います。
業務を行う場所によっては、事前の許可申請や地元漁協への説明が必要になるため、運用ルールを整理しておきます。
【ステップ4】案件獲得・求職活動の開始
準備が整ったら、実際の仕事につなげる活動を行います。
自社のWebサイトやSNSで実績を発信したり、関連企業へ営業を行ったりします。また、水中ドローンオペレーターを募集している企業の求人に応募するのも一つの方法です。
水中ドローンを仕事にする上で必要な準備(機材・スキル・資格)
用途に合った機材選びと、法令遵守の姿勢がプロとして不可欠です。
プロとして活動するために具体的に何を用意すべきか、機材やスキルの観点から解説します。
必要な水中ドローン機材と選び方のポイント
業務用の水中ドローン選びでは、以下の点が重要になります。
- 潜航深度とケーブル長:作業現場の水深に対応できるか
- カメラ性能:点検や撮影に必要な解像度や暗所性能があるか
- 拡張性:アーム(把持装置)やソナー、水質センサーなどのオプションを装着できるか
- バッテリー持続時間:1回の作業時間をカバーできるか
用途によって最適な機種は異なるため、メーカーのスペック表や導入事例を参考に選定します。
身につけるべき操縦スキルと専門知識
水中での操縦は、水の抵抗や潮流の影響を常に受けるため、3次元的な空間把握能力と繊細な操作技術が求められます。
また、機体のメンテナンス知識や、トラブル時の対処法も必要です。
さらに、点検業務を行う場合は、対象物(ダムや船底など)の構造に関する基礎知識があると、クライアントとのコミュニケーションがスムーズになります。
取得推奨の資格・許可・ライセンス
現在、水中ドローンの操縦に国家資格(免許)は必須ではありませんが、民間団体が認定する資格や講習が存在します。
これらを取得することで、操縦技術や安全管理知識の証明となり、クライアントからの信頼獲得につながる可能性があります。
関係法令・ガイドラインの確認
水中ドローンを運用する際は、海や川の利用に関するルールを守る必要があります。
海上衝突予防法や港則法、各自治体の条例、漁業権などが関係する場合があります。
トラブルを避けるため、撮影や調査を行う水域の管轄部署や漁業協同組合に事前に連絡・相談を行うことが重要です。
水中ドローン仕事の将来性と案件獲得・求人情報
専門知識と組み合わせることで、より付加価値の高い仕事につながります。
これから参入を考える方にとって気になる、市場の将来性と仕事の探し方について解説します。
水中ドローン市場の将来性と成長分野
水中ドローン市場は、産業のスマート化に伴い急速に拡大しています。特に成長が期待される分野として、以下の領域が挙げられます。
- スマート漁業:養殖業の自動化・効率化
- 洋上風力発電:建設時の調査や稼働後の設備点検
- インフラ維持管理:老朽化する水中インフラの点検需要
- ブルーカーボン:海藻などのCO2吸収源の調査
土木建築、水産業、公共分野を中心に、今後も需要は拡大していくと予測されています。
案件獲得の方法(フリーランス・個人事業主向け)
フリーランスや個人事業主として案件を獲得するには、自身のスキルと機材で「何ができるか」を明確に提示することが重要です。
建設コンサルタント会社、潜水会社、水産会社などが潜在的なクライアントとなります。
Webサイトでの発信に加え、地域の展示会への参加や、ドローン関連のマッチングサービスの活用も有効です。
水中ドローン関連の求人情報と探し方(就職・転職向け)
企業に所属して働く場合、海洋調査会社、建設会社、ドローンサービス提供会社などが主な就職先候補となります。
「ROVオペレーター」「水中ドローン操縦士」「海洋調査スタッフ」といったキーワードで求人サイトを検索すると、関連する募集が見つかることがあります。
水中ドローンを用いた仕事の収入目安と収益モデル
収入や収益モデルは、業務内容や契約形態によって大きく異なります。
一般的に、高度な専門知識(土木知識や海洋学など)を組み合わせた点検・調査業務は、単なる撮影業務よりも付加価値が高くなる傾向があります。
機材レンタル費、オペレーター人件費、報告書作成費などを組み合わせた見積もりが一般的です。
まとめ
水中ドローンは、インフラ点検、水産業、調査研究など、社会的に重要な分野で実用化が進んでいる成長産業です。
潜水士の代替として安全性を高め、業務効率を向上させるツールとして、今後ますます需要が高まると予想されます。
仕事にするためには、機材の操作スキルだけでなく、活用分野の業務知識や法令遵守の姿勢が求められます。
未経験から始める場合は、まずは市場のニーズを知り、目的に合った機材選びとスキル習得から一歩ずつ進めていくことが大切です。
テクノロジーの力で海や水中の課題解決に貢献する、新しいキャリアに挑戦してみてはいかがでしょうか。


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