ドローン市場で世界的なシェアを持つ「DJI」と、カメラ界の歴史的ブランド「ハッセルブラッド(Hasselblad)」。
この二つの名前が並ぶ製品を目にすることが増えましたが、具体的にどのような関係にあり、私たちユーザーにどのようなメリットをもたらしているのでしょうか。
「なぜドローンに高級カメラメーカーの技術が必要なのか?」「ハッセルブラッド搭載モデルは何が違うのか?」といった疑問を持つ方も多いはずです。
本記事では、DJIとハッセルブラッドの提携の歴史的背景から、その技術がもたらす映像表現の進化、そして実際に技術が搭載されている製品の選び方までを分かりやすく解説します。
テクノロジーの力で空撮映像をより美しく残したいと考える方は、ぜひ機材選びの参考にしてください。
DJIとハッセルブラッドの関係性とは?歴史と提携の背景
DJI製品のパッケージやレンズに刻まれた「Hasselblad」のロゴ。
これは単なるブランド名の貸し借りではなく、両社の深い技術的な結びつきを示しています。
まずは、両社がどのような経緯で手を組むことになったのか、その基本的な関係性を整理します。
高級カメラブランド「ハッセルブラッド」とは?その哲学
ハッセルブラッド(Hasselblad)は、1941年にスウェーデンで創業された老舗カメラメーカーです。
一般的な一眼レフより大きなフィルムやセンサーを使う中判カメラの分野におけるリーディングカンパニーとして知られています。
その最大の特徴は、スウェーデンの職人によるハンドメイドの品質と、圧倒的な描写力にあります。
特に歴史的に有名なのが、NASA(アメリカ航空宇宙局)との関わりです。
人類初の月面着陸を含むアポロ計画の記録写真は、ハッセルブラッドのカメラによって撮影されました。
過酷な宇宙環境でも機能する信頼性と、歴史的瞬間を鮮明に残す画質は、世界中のプロフェッショナルから絶大な支持を得ています。
DJIによるハッセルブラッドへの投資・買収経緯
ドローン技術で世界をリードしていたDJIと、光学機器の老舗であるハッセルブラッドが接近したのは2015年のことです。
DJIはハッセルブラッドと「戦略的パートナーシップ」を締結し、ハッセルブラッドの少数株を取得して役員を派遣することを発表しました。
その後、一部報道ではDJIが株式の過半数を取得したとも報じられましたが、公式発表としては協力関係が強調されています。
この提携により、DJIは単なる「空飛ぶロボットのメーカー」から、本格的な「空撮カメラメーカー」へと進化する足がかりを得ることになりました。
両社の技術提携が始まった理由と目的
この提携の主な目的は、両社の強みを融合させることにありました。
- DJIの強み:ドローンの飛行制御技術、ジンバル(手ブレ補正)技術、小型化技術
- ハッセルブラッドの強み:光学レンズ設計、大型センサーのノウハウ、色彩科学
当時、ドローン搭載カメラは小型化が優先され、画質面では地上用のプロ用カメラに及ばない部分がありました。
DJIはハッセルブラッドの光学技術を取り入れることで、空撮映像の品質を映画や商業写真レベルまで引き上げることを目指しました。
一方、ハッセルブラッドにとっても、急成長する空撮市場への参入は新たなビジネスチャンスでした。
提携の本質は、ドローンの機動力と最高峰の光学技術を融合させ、空撮の画質基準を底上げすることにあります。
ハッセルブラッドがDJI製品にもたらす唯一無二の価値
では、ハッセルブラッドの技術が入ることで、DJIのドローンは具体的にどう変わったのでしょうか。
ここでは技術的なメリットを深掘りします。
色彩科学「HNCS」が実現する自然で美しい色表現
ハッセルブラッド技術の核心とも言えるのが、「ハッセルブラッド ナチュラル カラー ソリューション(HNCS)」です。
これは、「人間の目で見たままの色」を忠実に再現するための独自の色彩科学(カラーマネジメントシステム)です。
一般的なデジタルカメラでは、鮮やかに見せるために色を強調しすぎたり、複雑な設定が必要だったりすることがあります。
しかし、HNCSを搭載したDJIドローンでは、シャッターを切るだけで、深みのある自然な色合いが記録されます。
これにより、撮影後の色編集(カラーグレーディング)の手間を大幅に減らしつつ、プロのような映像美を実現できます。
大判センサーと高解像度レンズによる圧倒的な描写力
ハッセルブラッドは伝統的に「中判」という大型センサーを扱ってきたメーカーです。
このノウハウは、DJI製品のセンサー大型化にも影響を与えています。
例えば、Mavic 3シリーズには4/3型(フォーサーズ)という、一般的なコンパクトドローンよりも遥かに大きなセンサーが搭載されています。
センサーが大きいと、取り込める光の量が増え、夕暮れや夜景などの暗い場所でもノイズの少ないクリアな映像が撮れます。
また、ハッセルブラッドの基準を満たすレンズ設計により、画面の隅々まで歪みのないシャープな画質が得られます。
プロフェッショナルな画像処理技術と信頼性
ハードウェアだけでなく、画像処理エンジンにもハッセルブラッドの哲学が反映されています。
空撮では、空の青、雲の白、地上の緑など、明暗差の激しいシーンが多くなります。
ハッセルブラッドの技術を取り入れたDJI製品は、広いダイナミックレンジ(明暗の表現幅)を持ち、白飛びや黒つぶれを抑えた階調豊かな映像を記録できます。
プロの現場でも「使える」画質への信頼性は、この技術提携によって大きく向上しました。
HNCSのおかげで、難しい設定なしでも「目で見た感動」をそのまま映像に残すことが可能です。
ハッセルブラッド技術搭載の主要DJI製品ラインナップ
現在、ハッセルブラッドの技術やブランドを冠した製品はいくつか存在します。
代表的なモデルを紹介します。
Hasselbladカメラ搭載ドローン:DJI Mavic 3シリーズ
一般ユーザーからプロまで最も広く使われているのが「DJI Mavic 3」シリーズです。
このシリーズのメインカメラには、「Hasselblad L2D-20c」という専用設計のカメラが搭載されています。
- 特徴:4/3型CMOSセンサー搭載、20MPの写真撮影、5.1K動画撮影
- メリット:HNCSによる自然な色再現が可能で、折りたたみ式ドローンとしては最高峰の画質を誇ります。
Mavic 3 ClassicやMavic 3 Proなど、派生モデルも含めてハッセルブラッドカメラが採用されており、現在のDJI空撮ドローンのフラッグシップラインとなっています。
プロ向けシネマドローン:DJI Inspire 3
「DJI Inspire 3」は、映画撮影などのプロ現場で使用されるハイエンドドローンです。
この製品自体には「Hasselblad」のロゴは大きく掲げられていませんが、DJIがハッセルブラッドとの提携を通じて培った映像技術の粋が集約されています。
Inspire 3は、DJI独自のフルサイズセンサーカメラ「Zenmuse X9」を搭載し、DJI Cinema Color System (DCCS) を採用しています。
これはハッセルブラッドのHNCSと同様に、正確な色再現を追求したシステムです。
ハッセルブラッドとの協業で得た「光学と色彩への高い基準」が、DJIのプロ向け製品全体の基礎体力を底上げしていると言えるでしょう。
ハッセルブラッド技術を活用したその他のDJI製品・連携
過去には、DJIの大型産業用ドローン「Matrice 600」に、ハッセルブラッドの中判カメラ「A5D」を搭載する空撮システムが発表されたこともあります。
これは、商業写真や測量などの特殊な用途に向けたものでした。
現在では、コンシューマー向けのMavicシリーズにおいて、ハッセルブラッドの技術が最も分かりやすい形で統合されています。
今後も、より小型のドローンやハンドヘルドカメラ(Osmoシリーズなど)への技術応用が期待されています。
Mavic 3シリーズは、ハッセルブラッドの技術を最も手軽かつ高品質に体験できる代表的なモデルです。
DJI製品でハッセルブラッドの恩恵を受けるための選び方
ハッセルブラッド搭載モデルは魅力的ですが、すべてのユーザーに必須というわけではありません。
自身の用途に合わせて選ぶための基準を解説します。
撮影用途に合わせたDJI製品の選定基準
- 風景写真・映像作品を作りたい人
迷わず「Mavic 3」シリーズなどのハッセルブラッド搭載モデルをおすすめします。特に空や自然の緑の発色は、HNCSの恩恵を強く感じられる部分です。 - SNSへの投稿・記録用
「DJI Mini」シリーズや「Air」シリーズでも十分高画質です。これらはハッセルブラッドブランドではありませんが、軽量で扱いやすく、コストも抑えられます。
プロとアマチュアで異なるハッセルブラッド技術の活用術
- アマチュア・初心者
HNCSの最大のメリットは「編集なしでも綺麗」なことです。難しい設定をせず、オートで撮影しても映画のような色味が出るため、撮影そのものを楽しむことができます。 - プロ・上級者
10-bit D-Logなどのプロ向けカラーモードを使用する場合でも、ハッセルブラッドのセンサー性能(ダイナミックレンジの広さ)が編集の耐性を高めてくれます。ポスプロ(撮影後の編集)を前提としたワークフローでも、その素性の良さが活きてきます。
コストパフォーマンスと期待できる画質向上のバランス
ハッセルブラッド搭載機は、非搭載機に比べて価格が高くなる傾向があります。
しかし、別途一眼レフカメラを空に飛ばすコストやリスクを考えれば、Mavic 3シリーズのような一体型ドローンのコストパフォーマンスは非常に高いと言えます。
「画質には妥協したくないが、機材はコンパクトにしたい」というニーズに対して、DJIとハッセルブラッドのコラボレーション製品は最適な解となります。
作品作りを目指すならハッセルブラッド搭載機、手軽な記録ならMini/Airシリーズと使い分けるのがおすすめです。
まとめ
DJIとハッセルブラッドの提携は、単なるブランド戦略を超え、空撮映像の品質を根本から引き上げる技術革新でした。
ハッセルブラッドがDJIにもたらす本質的な価値
ハッセルブラッドがもたらしたのは、月面着陸を記録した信頼性と、人間の視覚に忠実な色彩科学「HNCS」です。
これにより、DJIのドローンは「空を飛ぶカメラ」として、写真機材としての完成度を飛躍的に高めました。
あなたのクリエイティブを次のレベルへ引き上げるために
これからドローンを選ぶ際は、スペック表の数値だけでなく、「どのような色が撮れるか」という点にも注目してみてください。
ハッセルブラッドの技術が搭載されたDJI製品であれば、あなたの目の前に広がる景色を、感動そのままに映像として残すことができるはずです。
ぜひ、その圧倒的な描写力を自身の作品に取り入れてみてください。


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