ドローン技術の急速な発展に伴い、ビジネスや産業用途での活用が拡大しています。
それに伴い、2022年12月からドローンの国家資格制度である「無人航空機操縦士」が開始されました。
中でも最上位資格である「一等無人航空機操縦士(一等資格)」は、これまで不可能だった飛行形態を可能にする重要なライセンスとして注目を集めています。
しかし、一般ユーザーやこれからドローンを仕事にしたいと考えている方にとって、「一等資格はどれくらい難しいのか」「取得費用や期間はどの程度かかるのか」といった疑問は尽きません。
本記事では、ドローン一等資格の全体像から、気になる合格率や難易度、具体的な学習方法、そして資格取得後のキャリアパスまでを網羅的に解説します。
ドローン一等資格とは?無人航空機操縦士制度の全体像
ドローンの国家資格制度は、空の安全を確保しながらドローンの産業利用を促進するために設けられました。
まずは一等資格がどのような位置づけにあるのか、制度の全体像を解説します。
ドローン国家資格「無人航空機操縦士」が誕生した背景
2022年12月の航空法改正により、ドローンの操縦ライセンス制度(国家資格)が開始されました。
この制度が誕生した最大の背景は、「レベル4飛行」の解禁です。
レベル4飛行とは、「有人地帯(第三者上空)での目視外飛行」を指します。
これまでの法規制では、人がいる場所の上空でドローンを操縦者の目に見えない範囲まで飛ばすことは、安全上の理由から原則禁止されていました。
しかし、物流や都市部でのインフラ点検など、ドローンの産業利用を本格化させるためには、この規制をクリアする必要がありました。
そこで、操縦者の技能と機体の安全性を国が証明する制度として、無人航空機操縦士資格が創設されました。
一等・二等無人航空機操縦士の違いと飛行レベル
無人航空機操縦士には「一等」と「二等」の2つの区分があります。両者の決定的な違いは、許可される飛行レベルにあります。
- 一等無人航空機操縦士
レベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)が可能です。最もリスクが高い飛行形態に対応できる高度な技能と知識が求められます。 - 二等無人航空機操縦士
レベル1〜3飛行が可能です。無人地帯での目視外飛行などは可能ですが、第三者の上空を飛行することはできません。
一等資格は、ドローン操縦のプロフェッショナルとして、あらゆる環境下で安全に運航できる能力を証明する最上位の資格です。
一等資格で可能になる飛行と民間資格との違い
一等資格を取得し、かつ第一種機体認証を受けたドローンを使用することで、事前の許可・承認手続きなしでレベル4飛行を行うことが法的に可能になります(※飛行ごとの通報等は必要)。
また、従来の民間資格との大きな違いは「法的効力」の有無です。
民間資格はあくまで管理団体が技能を認定するものであり、レベル4飛行を行う権限はありませんでした。
国家資格である一等資格は、法律に基づいて特定の飛行権限を付与される点で、民間資格とは明確に異なります。
一等資格は「レベル4飛行」を行うための唯一の法的ライセンスです。
一等資格取得のメリット・デメリット
一等資格の取得には、明確なメリットと考慮すべきデメリットが存在します。
メリット
- 業務範囲の拡大:物流や都市部での空撮・点検など、レベル4飛行が必須となる業務を受注できます。
- 手続きの簡略化:特定の飛行形態において、許可・承認申請が不要になります。
- 社会的信用の向上:国家資格保有者として、クライアントや一般市民からの信頼を得やすくなります。
デメリット
- 取得難易度が高い:実技試験の基準が非常に厳しく設定されています。
- 費用と時間がかかる:講習費用や試験手数料が高額になる傾向があります。
- 更新が必要:3年ごとの更新講習と身体検査が必要です。
ドローン一等資格の合格率・難易度は?取得費用と期間を解説
一等資格はプロフェッショナル向けの資格であるため、取得のハードルは相応に高く設定されています。
ここでは合格率や費用について解説します。
一等無人航空機操縦士の合格率と推移
指定試験機関で直接受験する「一発試験」の合格率は非常に低い傾向にあり、一説には10%〜20%程度とも言われる難関です。
一方で、登録講習機関(ドローンスクール)の修了審査を経由する場合、十分な講習を受けた上で審査に臨むため、合格率は比較的高くなります。
学科試験については、適切な学習を行えば合格可能なレベルですが、二等に比べて出題範囲が広く、より深い理解が求められます。
合格に必要な勉強時間の目安と難易度
合格に必要な学習時間は、受験者の経験値によって大きく異なります。
初学者の場合、学科・実技合わせて100時間以上の学習と訓練が必要になることが一般的です。
特に実技における「ATTIモード(GPS等の姿勢制御を切った状態)」での操縦習得に多くの時間を要します。
すでに民間資格を持つ経験者でも、一等特有の厳格な安全確認手順や高度な操縦精度に適応するため、数十時間の講習や練習が必要です。
一等資格取得にかかる費用(内訳)
一等資格取得にかかる費用は、スクールを利用するか直接受験するかで大きく変わりますが、多くの人はスクールを利用します。
登録講習機関を利用する場合の目安
- 講習費用:経験者コースで30万円〜50万円程度、初学者コースで80万円〜100万円以上かかる場合もあります。
- 学科試験手数料:9,900円
- 身体検査手数料:書類受験で5,200円、会場受験で19,900円
- 交付手数料:3,000円
スクール費用は高額ですが、実技試験免除のメリットは非常に大きいです。
資格取得までの標準的な期間
スクールに通う場合、学科講習と実技講習を合わせて、最短で数週間、通常は2〜3ヶ月程度を見込むのが一般的です。
働きながら週末に講習を受ける場合は、半年程度かかることもあります。
ドローン一等資格の合格を掴む!具体的な学習戦略と試験対策
難関とされる一等資格試験を突破するためには、戦略的な対策が不可欠です。
学科、実地、身体検査それぞれのポイントを解説します。
学科試験の出題範囲と効果的な勉強法
学科試験はCBT方式で行われ、70問を75分で解く必要があります。
出題範囲は国土交通省発行の「無人航空機の操縦者のための教則」に基づき、航空法、気象、機体構造、リスク管理などが問われます。
一等では計算問題や複雑な状況判断も出るため、単なる暗記ではなく「なぜそうなるのか」という理屈を理解することが重要です。
実地試験の内容と合格に向けた訓練ポイント
実地試験は、机上試験、口述試験、実技試験の3つで構成されます。
最大の難関は実技試験における「ATTIモード(位置安定機能OFF)」での飛行です。
風の影響を受ける中で、指定されたルートを正確に飛行し、着陸させる技術が求められます。
GPSに頼らない操縦技術を徹底的に磨くことが合格への鍵となります。
一等試験では「高度変化を伴う飛行」や「緊急時の対応」も厳しくチェックされます。
身体検査・適性検査のチェック項目
身体検査では、視力、色覚、聴力、運動能力などがチェックされます。
自動車運転免許証などを提出することで一部項目を代替できる場合がありますが、25kg以上の大型機体を扱う場合などは詳細な検査が必要になることもあります。
試験官が重視するポイントとよくある失敗例
試験官は「操縦の上手さ」だけでなく、「安全意識の高さ」を最重要視します。
よくある失敗例として、周囲の安全確認(指差呼称)の省略や、飛行前点検項目の飛ばし、実技中の指定空域からの逸脱などが挙げられます。
操縦技術だけでなく、手順書に基づいた確実な動作を身につけることが大切です。
ドローン一等資格で広がる未来!具体的な仕事例とキャリアパス
一等資格は取得がゴールではありません。この資格を活かしてどのような仕事ができるのか、具体的なキャリアパスを紹介します。
一等資格が求められる業界と具体的な業務内容
一等資格の強みである「レベル4飛行」や「第三者上空飛行」は、以下の業界で特に需要があります。
- 物流・配送:都市部でのドローン配送において、有人地帯を通過するルート設計が可能になります。
- インフラ点検:交通規制を敷かずに上空からアプローチするなど、効率的な業務遂行が期待されます。
- 警備・監視:イベント会場や重要施設の上空監視など、人が多い場所でのセキュリティ業務に活用されます。
- 災害対応:緊急時に有人地帯を飛行して被災状況を確認したり、救援物資を輸送したりする際に役立ちます。
ドローン操縦士のリアルな求人動向と年収目安
現状では「測量士×ドローン」のように、既存の専門スキルにドローン技術を掛け合わせた求人が主流です。
年収の目安は一般的な操縦業務で300万円〜500万円程度ですが、一等資格を保有し高度な業務ができる人材であれば、600万円〜800万円以上の年収を提示されるケースも出てきています。
一等資格取得者の成功事例
一等資格を取得したことで、大手ゼネコンからの点検案件を受注できるようになった空撮会社の事例などがあります。
資格が信頼の証となり、高単価な案件や公的なプロジェクトに参画できるチャンスが広がっています。
ドローン産業の未来予測と一等資格の価値
政府は2020年代後半にはドローンが日常的に空を飛び交う社会を目指しています。
今後、自律飛行技術が進化しても、万が一の際に介入できる高度な技能を持った「一等無人航空機操縦士」の需要は高まり続けると予測されます。
一等資格は「希少価値の高い専門職」としての証明になります。
ドローン一等資格の取得方法と後悔しないスクール選びのポイント
一等資格を取得するための具体的なルートと、スクール選びの注意点を解説します。
登録講習機関ルートと指定試験機関ルートの違い
取得ルートは大きく分けて2つあります。
- 登録講習機関(スクール)ルート
スクールで講習を受け修了審査に合格すると、実地試験が免除されます。費用はかかりますが、確実性が高いルートです。 - 指定試験機関(一発試験)ルート
直接試験を受けるルートです。費用は抑えられますが、実地試験の難易度が極めて高く、上級者向けです。
ドローンスクール選びの比較ポイント
スクール選びで失敗しないためには、以下の点を比較しましょう。
- 一等資格の講習実績:実際に修了生を輩出しているか。
- 機材と施設:風の影響などを考慮した練習ができる広い環境か。
- 講師の質:一等資格を保有する講師が在籍しているか。
- 補講・再審査費用:追加費用や補講体制が明確か。
実技講習を行うフィールドの広さと環境は必ず確認しましょう。
取得後のドローン機体選びと保険の必要性
一等資格を活かしてレベル4飛行を行うには、資格だけでなく「第一種機体認証」を受けたドローンが必要です。
また、業務でドローンを飛ばす以上、対人・対物賠償責任保険への加入は必須です。
最新の航空法規とドローン運用時の注意点
ドローンに関する法律は頻繁に改正されます。
一等資格保有者であっても、飛行計画の通報や飛行日誌の記録義務は遵守しなければなりません。常に最新情報をキャッチアップする姿勢が求められます。
まとめ
ドローン一等資格(一等無人航空機操縦士)は、有人地帯での目視外飛行(レベル4)を可能にする、ドローン操縦の最高峰ライセンスです。
取得には高い技能と知識、そして安くない費用と時間が必要ですが、それに見合うだけの「業務範囲の拡大」や「社会的信頼」が得られます。
物流、点検、警備など、ドローン産業の未来は一等資格保有者の活躍にかかっています。
難易度は高いですが、適切なスクール選びと学習計画を立てれば、決して不可能な挑戦ではありません。
テクノロジーの進化と共に、新しい空のキャリアを切り拓くために、一等資格への挑戦を検討してみてはいかがでしょうか。


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