ドローンの普及に伴い、空撮や点検業務など活用の幅が広がる一方で、予期せぬトラブルのリスクも増加しています。
ドローンのトラブルは、墜落や衝突といった物理的な事故だけにとどまりません。機体を見失う「ロスト」や、プライバシー侵害、盗撮といった法的・倫理的な問題も深刻なトラブルとして挙げられます。
本記事では、ドローン運用において発生しうるトラブルの種類を網羅的に整理し、それらを未然に防ぐための予防策を解説します。
さらに、万が一トラブルが発生してしまった際の「操縦者側」の対応手順と、被害に遭ってしまった「被害者側」の具体的な対処法や相談先についても詳しく紹介します。
リスクを正しく理解し、安全にドローンを活用するための知識としてお役立てください。
ドローンで起こりうるトラブルの種類と具体的な事例
ドローンを運用する上で直面しうるトラブルは多岐にわたります。ここでは、物理的な事故から法的な問題まで、具体的な事例を交えて解説します。
物理的・操作的なトラブル(墜落、衝突、制御不能、バッテリー異常など)
ドローンのトラブルとして最もイメージしやすいのが、機体の破損や周囲への損害を伴う物理的な事故です。
業界情報や販売サイトなどで整理されている典型的なトラブル例には、以下のようなものがあります。
- 操作不能・制御不能:GPS信号のロストや電波干渉により、操縦者の意図通りに機体が動かなくなるケース。
- バッテリー切れ:飛行計画の甘さや低温環境下での急激な電圧低下により、帰還できずに墜落するケース。
- 着陸時の転倒:着陸操作のミスや強風により、機体が転倒(立ちゴケ)し、プロペラやモーターを損傷するケース。
- 空中でのモーター停止:整備不良や異物混入により、飛行中に動力が失われるケース。
また、電源投入直後や飛行中にドローンが意に反して上昇し、制御不能になった事例も報告されており、メーカー診断の結果、センサー異常等が原因とされることもあります。
法的・倫理的なトラブル(盗撮、プライバシー侵害、私有地侵入、騒音問題)
物理的な接触がなくても、ドローンの飛行そのものがトラブルの原因となることがあります。
特にカメラを搭載したドローンは、意図せず他人のプライバシーを侵害してしまうリスクがあります。
- 盗撮・プライバシー侵害:住宅の窓やベランダ付近を飛行し、住人の生活空間を撮影してしまうケース。「勝手に撮影された」と不安を感じた近隣住民との間でトラブルに発展することがあります。
- 私有地侵入:許可なく他人の土地の上空を低空飛行させることは、土地所有権の侵害にあたる可能性があります。
- 騒音問題:ドローンのプロペラ音は意外に大きく、静かな住宅街や公園などでは騒音として苦情の原因になります。
なお、ドローンによる盗撮やプライバシー侵害の具体的な件数に関する全国的な統計データは、公式情報として明記されていませんが、警察への相談事例などは存在するため注意が必要です。
ドローンロスト(紛失)
「ロスト」とは、操縦不能になったドローンが風に流されたり、自動帰還に失敗したりして、機体の行方がわからなくなる状態を指します。
国土交通省の事例一覧には、GPSエラーや自動制御の不具合等で山中に墜落・紛失した事例が複数記載されています。
ロストした機体が人や車の上に落下すれば重大な事故につながるほか、機体に保存された撮影データが第三者の手に渡ることで情報漏洩のリスクも生じます。
ドローン事故・重大インシデントの発生状況と主な要因
ドローンの事故はなぜ起きるのでしょうか。
国土交通省の事故事例分析によると、墜落等の事故原因の約8割が操縦ミスや確認不足などの「ヒューマンエラー」であるとする解析結果があります(例:244件の事例で約84.8%がヒューマンエラー)。
事故原因の大半は機体の故障ではなく、操縦者のミスや確認不足によるものです。
一方で、機体の不具合(モーター・バッテリー等)、制御・通信不能(GPSロスト・電波干渉)、天候変化(突風など)といった技術的・環境的要因も事故原因として頻出しています。
トラブルを未然に防ぐための予防策と安全な飛行の心構え
トラブルの大半がヒューマンエラーであるという事実は、裏を返せば、操縦者の準備と心構え次第で多くの事故を防げることを意味します。
正しい操縦知識とスキル習得の重要性
ドローンを安全に飛ばすためには、単に「飛ばせる」だけでなく、「止める」「戻す」といった基本操作を確実に習得する必要があります。
特に、GPSが効かない環境(ATTIモードなど)での操縦スキルや、緊急時の対応手順を学んでおくことが重要です。
初心者は、ドローンスクールや講習会を利用して体系的な知識を身につけることを推奨します。
飛行前の機体点検と環境確認の徹底
飛行前の点検は、事故を防ぐための最後の砦です。以下の項目を必ず確認しましょう。
- バッテリー残量と状態:満充電であるか、膨張や破損がないか。送信機やタブレットのバッテリーも確認する。
- プロペラとモーター:プロペラに欠けやヒビがないか、正しく装着されているか。モーターに異音やガタつきがないか。
- 通信・GPS状況:コンパスキャリブレーションは正常か、GPS信号は十分に受信できているか。
- 飛行環境:風速は機体の限界を超えていないか、周囲に障害物や電波干渉源(鉄塔など)がないか。
飛行前には必ず機体と周囲の環境をチェックし、不安要素があれば飛行を中止してください。
ドローンに関する法令・規制・マナーの遵守
ドローン飛行には「航空法」や「小型無人機等飛行禁止法」など、多くの法律が関わります。
人口集中地区(DID地区)や空港周辺など、飛行が禁止されている空域を事前に確認することは義務です。
また、法律で規制されていなくても、公園や観光地などでは独自のルールが設けられている場合があります。周囲の人への配慮を忘れず、マナーを守って飛行させましょう。
ドローンロストを防ぐための対策と機能活用
機体ロストを防ぐためには、ドローンに搭載されている安全機能を正しく設定・活用することが有効です。
- リターン・トゥ・ホーム(RTH)の設定:信号が途絶えた際やバッテリー残量が低下した際に、自動で離陸地点に戻る機能です。障害物を避けるため、帰還高度を周囲の建物や木よりも高く設定しておく必要があります。
- ジオフェンス機能:設定した範囲外に機体が出ないようにする機能です。目視外への飛び出しを防ぎます。
- バッテリー残量警告:バッテリーが一定以下になったら警告を出す設定にし、余裕を持って帰還させます。
ただし、機種や状況ごとにロストの原因は異なるため、過信は禁物です。
ドローントラブル発生時|操縦者がすべき具体的な対処法
万が一、事故やトラブルを起こしてしまった場合、操縦者は冷静かつ迅速に対応する責任があります。
負傷者・被害状況の確認と二次被害の防止
事故発生時、最優先すべきは人命の安全確保です。
ドローンが人や物件に衝突した場合は、直ちに飛行を中止し、負傷者の有無を確認してください。負傷者がいる場合は、救護活動と救急車の手配を行います。
また、墜落した機体が発火したり、道路を塞いだりして二次被害を引き起こす可能性があります。周囲の安全を確保し、被害の拡大を防ぐ措置を講じましょう。
事故・ロスト発生時の報告義務と連絡先
航空法に基づき、ドローンによる人の死傷、物件の損壊、航空機との衝突のおそれがあった場合などは、国土交通省への報告が義務付けられています。
- 警察への連絡:人身事故や物損事故の場合は、必ず警察へ通報してください。
- 国土交通省への報告:事故等の発生日時、場所、概要などを速やかに報告する必要があります。
事故発生時は隠蔽せず、速やかに警察および国土交通省へ報告する義務があります。
機体の捜索・回収手順と注意点
ドローンが墜落・ロストした場合は、送信機やアプリに残された最終地点のGPS情報(ログ)を頼りに捜索します。
発見時は、バッテリーが破損して発熱・発火している可能性があるため、不用意に触れず慎重に扱ってください。
私有地や立ち入り禁止区域に落下した場合は、無断で立ち入らず、必ず土地の所有者や管理者に連絡し、許可を得てから回収に向かってください。
ドローン保険への連絡と適用範囲の確認
事故対応が一段落したら、加入しているドローン保険会社へ連絡します。
- 賠償責任保険:対人・対物事故で第三者に損害を与えた場合の賠償金を補償します。
- 機体保険:自身のドローンが破損・紛失した場合の修理費や再購入費を補償します。
各保険の具体的な適用条件(どのケースが必ずカバーされるか)については、公式情報として一律に明記されているわけではないため、契約内容や約款を個別に確認する必要があります。
ドローンによる被害に遭ったら?被害者側の対処法と相談先
ここでは、ドローンによって「勝手に撮影された」「自宅に墜落してきた」といった被害を受けた側の対応について解説します。
被害状況の証拠収集と記録の重要性
被害を訴えるためには、客観的な証拠が不可欠です。可能な限り以下の情報を記録してください。
- 機体の特徴:色、形、大きさ、ライトの有無など。
- 日時と場所:いつ、どこで被害に遭ったか。
- 写真・動画:飛行中のドローンや、墜落した機体、被害箇所(壊れた屋根や怪我の状態)を撮影する。
- 操縦者の情報:近くに操縦者がいれば、その特徴や位置。
スマホで写真や動画を撮るなど、被害状況を客観的に証明できる証拠を残しましょう。
プライバシー侵害(盗撮・勝手に撮影)の場合の対処
自宅の中を覗かれた、執拗につきまとわれたなど、プライバシー侵害や盗撮の疑いがある場合は、警察へ相談してください。
「軽犯罪法」や各自治体の「迷惑防止条例」に抵触する可能性があります。
プライバシー侵害に関する法的判断や逮捕事例については、具体的な要件や判例に依存するため、自己判断せず、警察や弁護士などの専門家に相談することを推奨します。
物的損害・身体的被害の場合の対処
ドローンが衝突して怪我をした、車や家屋が傷ついたという場合は、刑事上の「過失傷害罪」や「器物損壊罪」、民事上の「損害賠償請求」の対象となり得ます。
まずは警察に通報して事故証明を作成してもらい、怪我がある場合は医師の診断書を取得してください。これらは後の示談交渉や損害賠償請求において重要な証拠となります。
被害を受けた際の相談窓口と法的措置の検討
被害の内容に応じて、適切な相談先を選びましょう。
- 警察(110番または#9110):緊急性がある場合や、事件性がある場合。
- 消費生活センター(188):トラブルの解決方法や専門機関の紹介を受けたい場合。
- 弁護士・法テラス:損害賠償請求や法的措置を検討する場合。
ドローントラブルに関するよくある疑問とQ&A
ドローントラブルに関して、よくある疑問をQ&A形式でまとめました。
ドローン飛行が禁止されている場所は?
航空法により、以下の場所での飛行は原則禁止されています(許可承認を得た場合を除く)。
- 空港等の周辺
- 緊急用務空域
- 人口集中地区(DID地区)の上空
- 150m以上の高さの空域
また、「小型無人機等飛行禁止法」により、国の重要施設(国会議事堂、原子力発電所など)の周辺も飛行禁止です。
ドローンで撮影された画像・動画はどこまでが違法?
撮影された画像・動画に特定の個人が識別できる状態で写り込んでおり、それがSNSなどで公開された場合、肖像権やプライバシー権の侵害となる可能性があります。
ただし、風景の一部として小さく写り込んでいる程度であれば、直ちに違法とはならないケースも多いです。境界線は状況によるため、不安な場合は専門家への相談が必要です。
ドローン保険の選び方と必要性
ドローンを飛ばすなら、万が一に備えて保険加入は必須と言えます。
- 賠償責任保険:他人に怪我をさせたり物を壊したりした時のために最優先で加入すべきです。
- 機体保険:高価な機体を使用する場合や、業務利用の場合に検討します。
ホビー用途であれば、ラジコン保険や個人賠償責任保険の特約でカバーできる場合もあるため、既存の保険を確認してみましょう。
ドローン操縦で逮捕されるケースはある?
あります。飛行禁止空域で許可なく飛ばした場合(航空法違反)や、重要施設の周辺で飛ばした場合(小型無人機等飛行禁止法違反)などで、書類送検や逮捕に至った事例が存在します。
また、盗撮目的での飛行は迷惑防止条例違反などに問われる可能性があります。
まとめ
ドローントラブルは、物理的な事故から法的な問題まで多岐にわたりますが、その多くは正しい知識と事前の準備で防ぐことが可能です。
- 予防が第一:事故原因の約8割はヒューマンエラーです。点検と法令遵守を徹底しましょう。
- 冷静な対処:万が一トラブルが起きた際は、人命救助と安全確保を最優先し、警察や国交省へ適切に報告・連絡を行ってください。
- 被害への備え:被害者になった場合は、証拠を記録し、警察や弁護士などの専門機関へ相談することが解決への近道です。
操縦者も周囲の人も、双方が安心して過ごせるよう、ルールとマナーを守ったドローン活用を心がけましょう。


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