農業用ドローン資格は必要?技能認定と飛行許可を解説

農業用ドローン資格は必要?技能認定と飛行許可を解説

この記事の結論
・農業用ドローン操縦に国家資格は不要だが、メーカー等の「技能認定」と国交省の「飛行承認」が実務上不可欠

・認定機は購入に技能認定が必要だが、申請手続き簡略化や補助金対象などのメリットが大きい

・導入時は機体選びだけでなく、スクール選びや飛行許可申請、保険加入などのトータルな準備が必要

農業における人手不足解消や作業効率化の切り札として、急速に普及が進む農業用ドローン。

導入を検討する際、多くの人が最初に直面する壁が「資格」に関する疑問です。「操縦には免許が必要なのか」「どのような手続きを行えば飛ばせるのか」といった情報は複雑で、初心者には分かりにくいのが現状です。

結論から言えば、農業用ドローンを操縦するために法的に必須となる「国家資格(免許)」は現時点ではありません。

しかし、安全かつ適法に運用するためには、メーカーや団体が定める「技能認定」の取得や、国土交通省への「飛行許可・承認」の手続きが実質的に不可欠となります。

本記事では、農業用ドローンに必要な「資格」の正体を解き明かし、技能認定の取得方法から飛行許可申請の流れ、機体選びのポイントまでを網羅的に解説します。

これから農業用ドローンを導入し、安全に活用するためのロードマップとしてお役立てください。

目次

農業用ドローンに「資格」は本当に必要?誤解されやすい3つの要件を整理

農業用ドローンの導入にあたり、最も混同されやすいのが「資格」「免許」「許可」の違いです。ここでは、法的な位置づけと実務上で必要となる要件を整理します。

「資格」とは何を指す?農業用ドローンにおける法的な定義

一般的に「ドローンの資格」と呼ばれるものには、国が発行する「無人航空機操縦者技能証明(国家資格)」と、民間団体やメーカーが発行する「技能認定(民間資格)」の2種類が存在します。

農業用ドローンにおいて、自動車の運転免許証のように「持っていなければ操縦してはいけない」という法的な国家資格は必須ではありません。

2025年現在、農薬散布などの一般的な農業利用においては、国家資格がなくても法的に飛行可能です。ただし、後述する「技能認定」や「飛行許可」が実務上のパスポートとして機能します。

農業用ドローン運用に必要な「技能認定」とは?取得のメリット

法的な免許は不要ですが、実務上ほぼ必須となるのが「技能認定」です。

これは、農林水産航空協会やドローンメーカー(DJI、クボタなど)が指定する教習施設で講習を受け、一定の操縦技術と知識を有していることを証明するものです。

多くの農業用ドローン(特に認定機と呼ばれるもの)は、この技能認定証(修了証)を提示しなければ機体を購入できない、あるいはロックが解除されず飛行できない仕組みになっています。

また、技能認定を取得することで、国土交通省への飛行許可申請時に「操縦者の飛行経歴・知識」を証明する書類の一部を省略できるメリットもあります。

農薬散布で必須の「飛行許可・承認」とは?その要件と申請先

ドローンで農薬を散布する場合、航空法における以下の規制対象となるため、国土交通大臣(実務上は国土交通省)の許可・承認が必須となります。

  • 危険物の輸送: 農薬は航空法上の「危険物」に該当します。
  • 物件投下: 空中から農薬を散布する行為は「物件投下」に該当します。

これらの行為を行うには、事前に飛行計画や安全対策を申請し、承認を得る必要があります。これは資格の有無に関わらず、業務として農薬散布を行うすべての操縦者に課せられる義務です。

農薬散布は「危険物輸送」と「物件投下」に該当するため、必ず国の許可が必要です。

認定機・非認定機で「必要な要件」がどう変わる?

農業用ドローンには「認定機」と「非認定機」が存在し、それぞれ求められる要件が異なります。

  • 認定機(農水協認定機、メーカー認定機など):
    購入・運用には対応する「技能認定」の取得が必須です。機体の安全性や性能が保証されており、補助金の対象になりやすい特徴があります。
  • 非認定機:
    特定の技能認定は必須ではありません。しかし、国土交通省への飛行許可申請を行う際、操縦者自身が「10時間以上の飛行経歴」や「安全な飛行に必要な知識」を有していることを自ら証明する必要があります。

農業用ドローンの「技能認定」取得方法と選び方

農業用ドローンをスムーズに導入するためには、適切な技能認定の取得が近道です。ここでは主要な認定制度と取得プロセスについて解説します。

農林水産航空協会(農水協)認定の取得プロセスと注意点

農林水産航空協会(農水協)の認定制度は、日本の農業用ドローンにおいて長い歴史を持ちます。農水協が認定した機体を使用する場合、指定の教習施設で講習を受ける必要があります。

具体的なカリキュラムや試験内容は教習施設によって管理されていますが、基本的には学科講習と実技講習を経て、修了試験に合格することで認定証が交付されます。

取得を検討する際は、最寄りの指定教習施設へ問い合わせ、スケジュールを確認する必要があります。なお、公式情報において詳細な統一プロセスは公開されていないため、施設ごとの確認が必須です。

DJI・クボタなどメーカー独自の技能認定と特徴

現在、市場で広く利用されているのがメーカー独自の技能認定です。

  • DJI(UTC農業ドローン協議会):
    世界的なシェアを持つDJI製の農業ドローン(AGRASシリーズなど)を扱うための認定です。全国にあるUTC認定の教習施設(農業ドローンスクール)で受講可能です。
  • クボタ:
    クボタ製の農業ドローンを扱うための認定で、クボタの販売網や指定スクールで講習が行われます。

これらのメーカー認定は、機体の購入とセットで案内されることが多く、機体特性に特化した操作方法を学べる点が大きな特徴です。

認定取得にかかる費用と期間の目安

技能認定の取得にかかる費用や期間は、受講するスクール、コース(初心者向けか経験者向けか)、取得する機種によって異なります。

一般的に、数日間の講習(学科+実技)が組まれるケースが多いですが、具体的な金額や日数については各教習施設の公式サイトや資料請求で確認する必要があります。

公式な統一価格は存在しないため、予算計画を立てる際は複数のスクールを比較検討することをおすすめします。

失敗しない教習施設(スクール)の選び方とチェックポイント

農業用ドローンの教習施設を選ぶ際は、以下のポイントを確認しましょう。

  • 取り扱い機種: 自分が導入したい機体(DJI、クボタ、マゼックスなど)の認定講習を行っているか。
  • 立地と日程: 通いやすい場所にあるか、農繁期を避けて受講できるか。
  • アフターフォロー: 講習後の機体整備や、実際の散布に関する相談に乗ってくれるか。
  • 講師の実績: 実際の農業現場での散布経験が豊富な講師が在籍しているか。

これらを事前に確認することで、資格取得だけでなく、その後の運用もスムーズになります。

スクール選びでは、資格取得後の機体整備や相談が可能かどうかも重要な判断基準です。

国土交通省への「飛行許可・承認」申請ガイド

技能認定を取得し機体を手に入れても、国の許可なく農薬散布を行うことはできません。ここでは必須となる手続きについて解説します。

農薬散布での飛行許可・承認が必要なケースと条件

前述の通り、農薬散布は「危険物の輸送」および「物件投下」に該当するため、場所に関わらず国土交通省の承認が必要です。また、以下のような条件下で飛行させる場合も許可が必要です。

  • 人口集中地区(DID地区)の上空
  • 夜間飛行(早朝や夕暮れ時の作業も含まれる場合がある)
  • 目視外飛行(モニターを見ながらの操縦など)
  • 人や物件から30m未満の距離での飛行

農業利用では、これらを包括的に申請するケースが一般的です。

申請に必要な書類と手続きの流れ、スムーズに進めるコツ

申請は、国土交通省が運営するオンラインシステム「DIPS 2.0(ドローン情報基盤システム)」を通じて行うのが一般的です。

  • アカウント開設: DIPS 2.0で申請者IDを取得。
  • 機体登録: 使用するドローンの情報を登録。
  • 操縦者登録: 操縦者の情報や技能認定の情報を登録。
  • 申請書の作成: 飛行目的(農薬散布など)、飛行日時(年間包括申請が可能)、飛行場所、安全対策などを入力。
  • 審査・許可: 審査を経て、電子許可証が発行されます。

技能認定証を持っている場合、操縦者の能力確認書類の一部を省略できるため、手続きがスムーズになります。

飛行許可・承認取得後の遵守事項と更新について

許可・承認を得た後も、以下のルールを遵守する必要があります。

  • 飛行日誌(フライトログ)の記録: 飛行日時、場所、操縦者、機体の点検状況などを記録し、管理する義務があります。
  • 安全確保措置: 補助者の配置(条件により緩和あり)や、第三者の立ち入り制限など、申請した安全対策を徹底します。
  • 許可の更新: 包括申請の有効期間は最大1年間です。期限が切れる前に更新手続きを行う必要があります。

包括申請の有効期間は最大1年間です。期限切れによる無許可飛行にならないよう注意しましょう。

認定機と非認定機、どちらを選ぶべき?比較と判断基準

農業用ドローンを選ぶ際、認定機にするか非認定機にするかは重要な判断ポイントです。それぞれの特徴を比較します。

認定機のメリット・デメリットと推奨されるケース

メリット:

  • 信頼性: メーカーや農水協の基準をクリアしており、性能や安全性が担保されています。
  • 手続きの簡略化: 技能認定と紐付いているため、飛行許可申請や機体登録がスムーズです。
  • 補助金活用: 多くの補助金制度において、認定機の導入が要件または加点対象となる場合があります。

デメリット:

  • コスト: 機体価格や技能認定取得費用がかかるため、初期導入コストが高くなる傾向があります。
  • 制約: 指定の講習を受けなければ購入・運用ができない場合があります。

推奨ケース: 初めて農業用ドローンを導入する方、補助金を活用したい方、手厚いサポートを求める方に適しています。

非認定機のメリット・デメリットと運用上の注意点

メリット:

  • コスト: 認定機に比べて安価なモデルが多く存在します。
  • 自由度: 特定の技能認定が必須ではないため、導入のハードルが低い場合があります。

デメリット:

  • 申請の手間: 飛行許可申請時に、機体の安全性や操縦者の技能を独自に証明する必要があり、手続きが煩雑になる可能性があります。
  • 自己責任: 運用上のトラブルやメンテナンスに関して、ユーザー自身の知識と管理能力がより強く求められます。

注意点: 非認定機であっても、農薬散布を行う場合は国交省への許可申請は必須です。

あなたの圃場・目的に合った機体選びのポイント

機体選びでは、以下の要素を考慮しましょう。

  • 圃場の規模: 大規模な圃場ならタンク容量が大きく飛行時間の長い認定機、小規模や中山間地なら取り回しの良い小型機。
  • 散布する作物: 液剤だけでなく粒剤散布も行うか。
  • 予算: 導入コストだけでなく、講習費、保険、メンテナンス費を含めたトータルコスト。
  • サポート体制: 故障時にすぐに修理対応してくれる販売店が近くにあるか。

導入後のサポート体制や保険加入の重要性

ドローンは精密機器であり、過酷な農業現場で使用するため、故障や事故のリスクは避けられません。

保険: 対人・対物賠償責任保険への加入は必須と言えます。認定機の場合、購入時に初年度の保険が付帯しているケースもあります。

サポート: 散布シーズン中に機体が故障すると作業が止まってしまいます。代替機の貸し出しや迅速な修理体制があるメーカー・販売店を選ぶことが重要です。

初めての導入なら、サポートが手厚く補助金も活用しやすい「認定機」がおすすめです。

導入・運用を後押しする補助金・助成金制度と実践的ノウハウ

導入コストを抑え、安全に運用するための情報を紹介します。

農業用ドローン導入で活用できる補助金・助成金の種類と条件

国や地方自治体は、スマート農業の推進としてドローン導入を支援しています。

  • 国の補助金: 「経営継続補助金」や「人材開発支援助成金(技能実習への助成)」などが活用できる場合があります。
  • 自治体の助成: 各都道府県や市町村が独自に「スマート農業導入支援事業」などを実施していることがあります。

具体的な名称や条件は年度や地域によって異なるため、農林水産省のホームページや地元の自治体、JAの窓口で最新情報を確認することが重要です。認定機の導入が条件となっているケースも多いため注意が必要です。

申請のコツと成功事例から学ぶポイント

補助金の申請を成功させるためには、公募要領を熟読し、導入による「経営改善効果(労働時間の短縮、生産性の向上など)」を具体的に数値で示すことがポイントです。

また、申請期間が限られていることが多いため、早めに販売店や行政書士などの専門家に相談し、準備を進めることが推奨されます。

農業用ドローン安全運用とトラブル回避のポイント

安全な運用のために、以下の習慣を身につけましょう。

  • 飛行前点検: プロペラの破損、バッテリーの充電状況、ノズルの詰まりなどを毎回確認する。
  • 気象条件の確認: 風速や天候を確認し、無理な飛行は避ける。特に風が強い日の農薬散布はドリフト(飛散)の原因となり危険です。
  • バッテリー管理: リチウムポリマーバッテリーはデリケートです。適切な保管と使用を心がけましょう。

農業用ドローン導入成功事例とよくある失敗談から学ぶ

成功の傾向:
重労働だった防除作業が短時間で完了し、空いた時間を他の作業や管理に充てることで、農業経営全体の効率化に成功しているケースが多く見られます。

よくある失敗:

  • 操作ミスによる墜落: センサーを過信し、電線や立木に接触させてしまう。
  • 法規制の認識不足: 許可更新を忘れ、無許可飛行となってしまう。
  • 近隣トラブル: 早朝の騒音や農薬の飛散により、近隣住民とトラブルになる。

これらは、事前の十分な講習受講と、周囲への配慮によって防ぐことが可能です。

補助金申請は「経営改善効果」の数値化が鍵。早めに専門家へ相談しましょう。

まとめ

農業用ドローンの導入において、「資格」は法的な義務ではありませんが、安全かつ円滑な運用のための「鍵」となります。

農業用ドローン運用へのロードマップ:取得から活用までの流れ

  • 情報収集・機体選定: 自分の圃場に合った機体(認定機・非認定機)を検討する。
  • 技能認定の取得: 選定した機体に対応するスクールで講習を受け、技能認定を取得する。
  • 機体購入・登録: 機体を購入し、DIPS 2.0で機体登録を行う。
  • 飛行許可・承認申請: 国土交通省へ農薬散布等の飛行許可を申請し、承認を得る。
  • 運用開始: 飛行日誌を記録し、安全ルールを守って散布作業を行う。

農業用ドローン運用でよくある疑問とQ&A

Q. 中古の農業用ドローンを購入した場合、資格はどうなりますか?
A. 認定機の中古品を購入する場合、名義変更や技能認定の紐付けが必要になることがあります。メーカーや販売店によって対応が異なるため、購入前に必ず確認してください。

Q. 2025年12月以降、制度が変わると聞きましたが?
A. 2025年12月以降、制度が見直される可能性があります。民間資格(技能認定)による飛行許可申請の一部省略などの優遇措置が変更され、国家資格への移行が進む可能性があります。

ただし、現時点では技能認定が実務上のスタンダードですので、最新の動向を注視しつつ、まずは現在のルールで運用実績を積むことが推奨されます。

農業用ドローンは、正しい知識と手順を踏めば、農業の未来を拓く強力なパートナーとなります。まずは最寄りのスクールや販売店に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。

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